顕微鏡に魅了され飛び込んだ病理の世界。2つの専門医資格をもって「助かる命」を増やす

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター  病理科 / 臨床病理科
主任 浅川 翠 先生

動物に関わる様々な分野のトップランナーの皆さまにお話を伺う「The specialist」。
第二回目となる今回は、どうぶつの総合病院  専門医療&救急センター病理科 / 臨床病理科 主任・浅川翠先生のインタビューをお届けします。
大学在学時に病理の世界に魅せられ、専門医資格の取得を目指しアメリカへ。のちにダブルボードも取得された浅川先生の挑戦の日々、そして病理への熱い想いをお届けします。

目次

「こんな世界があったんだ!」衝撃を受けた病理との出会い

──  病理科と臨床病理科、2つの科で専門医を務められている浅川先生ですが、まずはこの「病理医」について、どのようなお仕事かをお聞かせください。

獣医療において、動物の細胞や組織を観察することで病気を診断する仕事です。たとえば、主治医の先生による診察だけでは診断に至らないときに、病理医が細胞や組織を観察し、そこからわかったことを臨床医の先生に連携するといった形です。
普段は患者様やご家族の皆様と顔を合わせることはほとんどなく、顕微鏡に向かっている時間がとても多いですね。

──  病理を学びはじめたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

大学1年生のときにたまたま友人に誘われて行った研究室で、学生の勉強用として動物の組織をつくるプロジェクトに参加したのですが、そこでの衝撃的な出会いがきっかけでした。はじめて自分がつくったプレパラートを見たときの感動。こんな世界があったんだ!という驚き…。とにかく「病理」というものに魅了され、顕微鏡が大好きに。3年生になると病理の研究室に入り、さらに学びを深めていきました。

── のちに病理科の専門医となる浅川先生にとって、人生の転機とも言える出会いですね。卒業後ほどなくしてアメリカへ渡られていますが、そのきっかけが生まれたのも大学在学中でのことですか?

そうですね。ちょうど病理の研究室に入った大学3年生ころから、日本語の教科書以外に英語の文献を読み始めたのですが、そのときにアメリカの病理に対する知識の深さにものすごく感銘を受けたのが最初のきっかけです。その後、5年生のときに大学の交換留学プロジェクトに参加をして、アメリカのペンシルベニア大学へ。見学実習として腫瘍科・臨床病理科・病理科を回ったのですが、そこではとにかく驚きの連続でした。症例数や教員の多さをはじめ、一人のひとりの教育に費やす時間や、その教育内容の濃さなど…。日本とはスケールが大きく違い、自分もこういう環境で学びたい。そしてこれほどの深い知識と経験をもって、動物たちを支える獣医師になりたい!と思い、アメリカ行きを決意しました。

努力と挑戦を重ね取得したダブルボード。日本への還元を目指しどうぶつの総合病院へ

── 専門医取得を目指し、アメリカでスタートしたレジデント。慣れない地での苦労などはありましたか?

やはりはじめは、高い言語の壁にぶつかりました。たとえば日本では、難しい内容のものでもそれを和訳してそのまま伝えることができればOKだったのですが、アメリカではその内容を完全に理解したうえで“自分がどう思ったか?”が伝えられないと、ディスカッションができないんですね。周りのみんなと同じレベルで授業を受けたり、論文を読んだりするほどの語学力がなかった私にとってはかなりハードルが高く、同時にそれでも挑戦する“精神力”を持ち続けることが課題ともなりました。


── どのようにしてその壁を乗り越えたのでしょうか?

みんなと同じことをやっていては評価はされない。であれば、“感銘を受けるほど”の努力をしようと決めました。

たとえば授業でプレゼンをするときには、プレゼン後に指導教官のところに行き、より良いものにするためのアドバイスを聞いて回ったり、発音がうまくできない医学用語があると、専門医の先生に読み上げてもらって録音したものを寝落ちするまで聞き込んだり…。そういった努力を、一日何時間という単位で積み重ねていきました。

── そんな努力の日々もあり、2010年に解剖病理学の専門医試験に合格。さらに2015年には、臨床病理学の資格も取得されています。

解剖病理と臨床病理。似ているけれど専門としては異なる分野として確立していたので、どちらの資格も身に付けたいと思いダブルボードを目指しました。渡米してはじめの1年はいろいろな苦労もありましたが、2年目からは毎日がとても楽しくて、それだけに専門医試験に合格したときはとても淋しくもあったんですね。そんな気持ちも後押しとなり、コーネル大学へ。レジデントを終え、2つ目となる臨床病理学の資格を取得しました。

──  その後日本へ帰国し、現在はどうぶつの総合病院で活躍されていますが、そこに至った経緯をお聞かせください。

2011年、日本に一時帰国していたときに講演をさせていただいたことがありました。震災直後だったこともあり、もしかしたら誰もいらっしゃらないかな…と思いながら会場に向かったのですが、実際にはたくさんの方が会場に集まり、みなさん本当に熱心に私の話を聞いてくださったんです。
講演後にも列を作って質問をいただいたり、「勉強になりました」と声をかけていただいたりしたことで、「日本に帰ればこうして私の経験を還元することができるのか…」と実感しました。

実は2つ目の資格取得を目指した理由のひとつに、この講演での経験があります。

さらに、専門医がアメリカほど多くなく、かつ動物病院の規模もあまり大きくない日本で「自分が解剖病理と臨床病理の両方を診ることができれば、助かる命が増えるのではないか…」とも。

つまりこの講演での出来事が、私の2つ目の資格取得、そしてのちの帰国につながることになったんです。


また、どうぶつの総合病院代表の安藤先生が診断・治療における「病理」をとても大事に捉え、深く理解されていることにも感銘を受けたのも、私が今ここにいる大きな理由のひとつです。

その先にある成長を見据えてチャレンジを

──  専門医として働くうえで、どのようなことを大切にしていますか?

昔から変わらずですが、患者様にとって最も役に立つ情報を提供したい、という想いは強く持っています。病理診断は私たち病理医のためのものではなく、ゆくゆくは患者さんに還元されるためのもの。そのためにも、できる限り臨床医の先生をサポートできるような診断ができるとうれしいですね。
また、これは私自身が出産を経験してからより感じるようになったことですが、「育成」にもとても関心があります。学び方や成長の仕方は十人十色。どんなふうに自分が伴走したら、その人が最も良い形で成長できるのか…。とても難しい分野ではありますが、日々考えながら獣医療に向き合っています。

── 最後に、これから獣医師(専門医)を目指す若者へのアドバイスをお願いします!

失敗を恐れずに、いろいろなことにチャレンジしていただきたいと思っています。
私も人生でたくさんの失敗を重ねて人生を歩んできましたが、「まだできないから挑戦しない」ではなく、挑戦してみたうえで自分がどのように成長できるか、が大切。
ぜひ、チャレンジし続けながら前向きに進んでいってください!

プロフィール

浅川 翠(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター 病理科 / 臨床病理科 主任)

◾️学位・称号・資格
獣医師、米国獣医病理学専門医(解剖病理学、臨床病理学) 

◾️所属学会
American College of Veterinary Pathologists
American Society of Veterinary Clinical Pathology
Japanese Group of American College of Veterinary Pathologists

◾️略歴
2006年
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
2006年
東京大学付属動物医療センター 内科系研修医
2010年
米国ノースカロライナ州立大学 獣医解剖病理科レジデント修了、
米国獣医病理学専門医(解剖病理学)取得 
2011年
米国Contact Research Organization病理専門医
2013-2016年
米国コーネル大学 臨床病理科レジデント修了
2015年
米国獣医病理学専門医(臨床病理学)取得
2016年
どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター主任

◾️受賞歴
Monica Menard Memorial Award
ASVCP Share the Future Award
Best Overall Presentation Award of Clinical Investigator’s day

◾️論文実績
論文実績はこちら

◾️学術活動
学術論文審査員
Journal of Veterinary Internal Medicine
Journal of American Veterinary Medical Association
Veterinary Radiology and Ultrasound
Veterinary Pathology
Journal of Veterinary Medical Science他

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