腫瘍のある犬猫を一気通貫でケア。飼い主さんの安心につながるチーム医療を目指して

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター 外科 主任・三井明子先生

動物に関わるさまざまな分野のトップランナーにお話を伺う「The specialist」。
今回は、どうぶつの総合病院専門医療&救急センター 外科主任・三井明子先生のインタビューをお届けします。
人間の医療を学ぶなか、獣医療への高まる思いに背中を押されアメリカの獣医大学へ進学された三井先生。先生の感じる日本とアメリカのペット文化におけるギャップや、飼い主さんの心に寄り添う“チーム医療”の実践について語っていただきました。

人間の医療から獣医療へ。自分自身と向き合い、獣医師の道を選択。

── 現在、外科・腫瘍外科をご専門とされている三井先生。獣医師としてはアメリカでスタートラインに立たれたとのことですが、その背景をお聞かせください。

私は父親の仕事の関係で10歳から高校3年生までアメリカに住んでいたのですが、もともと人間の医療に関心があり、当時は大学を卒業したら現地のメディカルスクールへ行こうと考えていました。実際には帰国が決まり日本の大学へ進学することになるのですが、やはり医療の道をあきらめることができず、ふたたび単身アメリカへ。

これが、のちに獣医療をアメリカで学ぶことになる最初の一歩です。小さいころからアメリカにいたため、私にとっては英語の方が学びやすく、渡米することに決めました。

── はじめは人間の医療を学ばれていたとのことですが、その後、獣医療の道へ進まれたのはなぜだったのでしょうか?

それまでは医師を志していたものの、「なぜ人間なのか?」というとそれはどこか漠然としたものでした。そんななか、幼いころから動物が好きなこともあり、この先長い間仕事として携わっていくのであれば…と獣医療の方へ心が動き始めたんです。自分自身の気持ちと能力に本気で向き合い、結果的に獣医師としての道を選ぶことに決めました

── そのなかでも外科を選んだ理由はどのようなものでしたか?

アメリカの獣医学校へ入るには現場での経験が必要で、たまたま近くにあったクリニックでボランティアをさせていただいたのですが、初日にお手伝いしたのが外科だったんです。そこで初めて獣医療の“裏側”のようなものに触れ、それがとても楽しくて。その経験をきっかけに「外科がやりたい!」という思いが芽生え、入学前の時点でその気持ちは確かなものになっていました。

チーム医療の実現は、飼い主さんのメンタリティのサポートへ

── 長年アメリカで獣医療に携わったのち、日本へ帰国されました。その後、この「どうぶつの総合病院」でお仕事をするに至った経緯をお聞かせください。

日本の国家試験に合格したことを機に帰国を決めたのですが、そのタイミングで、今ここで活躍されている金園先生や塩満先生に連絡をさせていただいたのがきっかけとなりました。先生方は、私がアメリカで外科のレジデントをしていたときに一緒だったかつての仲間なんです。帰国が決まったものの日本の就職活動もよくわからず、さてどうしようかと。そんなときに、もし叶うのであればまた先生方と一緒に働きたいな…と思い私から連絡をしました。

── アメリカでのご経験を踏まえ、日本とアメリカの獣医療にはどのような違いを感じているでしょうか?

この「どうぶつの総合病院」においては海外でトレーニングした先生方がたくさんいらっしゃいますし、設備もかなり高いレベルで整っているので、医療面における違いはあまり感じていません。一方で、日本のペット文化や飼い主さんの考え方には大きな違いを感じています。まず日本は小型犬がものすごく多いこと。そして飼い主さんの、ペットを最期まで“看取る”という感覚が非常に強いことに驚きました。


アメリカではどちらかというとQOLを優先に考えていて、手遅れの場合は安楽死を考えることも選択肢としてありますが、日本の飼い主さんは、やはり最期まで一緒にいたいという気持ちが強いですよね。
今は、こうした文化の違いをあらためて周りの先生に教えてもらったり、レジデントの先生に飼い主さんと会話をしてもらったりしながら、日本に合ったコミュニケーションを少しずつ身に着けていっています。

── 「どうぶつの総合病院」では“チーム医療”が大きなテーマにもなるかと思いますが、ドクターの一員となった今、ここでの医療体制についてはどのように感じていらっしゃいますか?

私たちが実践している“チーム医療”は、飼い主さんのメンタリティへのアプローチとして非常に良いものであると感じています。

たとえば手術が決まったときには、のちに放射線が必要になるようなことはないか?といったことをあらかじめ放射線腫瘍科の先生と確認し、その可能性が高い場合はその点を配慮した手術法で進めていく。このように、診療の初期段階から経過観察まで各科の先生方と連携を取りながら進めていくことで、飼い主さんが各科の先生に都度説明をしなければならないような状況がなくなり、結果としてそこにかかるメンタル面の負担軽減につながっているのではないでしょうか。

日本人特有のすばらしさを活かして挑戦を

── 三井先生がこれから取り組んでいきたいことはありますか?

腫瘍を持った犬猫に対し、他の先生方とタッグを組みながらのチーム医療は、やはりこれからも力を入れていきたいです。
「手術したら終わり」ではなく、その後別の科で診てもらう場合は両者でフォローアップをしながら、中長期的にチームでサポートをしていくのが理想的。

「ここへ来れば総合的に診てもらえる」と、飼い主さんが安心できるような環境を作ることができたら良いですね。

──  では最後に、これから獣医師(専門医)を目指す方へのアドバイスをお願いします!

これからさまざまな知識が必要にはなるかと思いますが、獣医師や専門医を目指すうえではその人間性も同じくらい重要になってきます。
「この人と協力して一緒に働きたい」。そんな風に思ってもらえるドクターになれるよう、ぜひ“自分磨き”も大切にしていってください。また、日本人の細かい点によく気がつくところや責任感、手先の器用さは、そう簡単には真似できないすばらしいところ。
アメリカでもきっと優秀な先生になれるので、ぜひ自信を持って挑戦していってください!

<プロフィール>

三井 明子(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター  外科 主任)

◾️学位・称号・資格
米国獣医師(DVM)、日本獣医師、米国獣医外科専門医(DACVS-SA)、獣医腫瘍外科フェローシップ修了

◾️所属学会
American College of Veterinary Surgeons
American Veterinary Medical Association
Veterinary Society of Surgical Oncology

◾️略歴
2003年
コーネル獣医大学卒業
2004年
アニマルメディカルセンター インターン修了
2006年
アリゾナ州内動物病院 外科インターン修了

2009年
アリゾナ州内動物病院・ノースカロライナ州立大学獣医外科レジデント修了
2009年~2020年 
米国国内、専門医療動物病院 獣医外科医

2022年
オハイオ州立大学獣医腫瘍外科フェローシップ 修了
2023年
カルフォルニア州内 獣医外科医

2024年
どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター 外科 主任


◾️論文実績
論文実績はこちら

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

面白かったらシェアしてください
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!