内科医としての高みを目指し専門医へ。アメリカで触れた獣医療の“当たり前”を次の世代に伝え継ぐ

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター  内科 主任・佐藤 雅彦先生

動物に関わるさまざまな分野のトップランナーにお話を伺う「The specialist」。
今回は、どうぶつの総合病院専門医療&救急センター 内科主任・佐藤雅彦先生のインタビューをお届けします。
アメリカの獣医療における“当たり前”を日本にも浸透させるべく、「教育」にも注力される佐藤先生。次世代にバトンをつなぐ立場として大切にされていること、そこに込められた想いなどをうかがいました。

目次

知識のなさを痛感…。臨床現場での経験から専門医資格の取得を決意


── まずは佐藤先生が専門とされている「小動物内科」について、どのような役割を持つかをお聞かせください。
小動物内科は犬と猫を専門に、下痢や嘔吐、咳など幅広い内科疾患の診察をする部門です。

── 小動物内科の専門医資格をアメリカで取得されていますが、その背景はどのようなものだったのでしょうか。
学生時代に臨床の研究室に所属していて、そのころから内科診療に携わり飼い主さんとお話しする機会をいただいていました。ですが当時は、飼い主さんからの質問に対して“正しい回答ができている”という自信が持てないこともあり、もっと勉強をして、十分に理解をしたうえで責任を持って発言しなければ、と感じることがしばしばありました。
その後、一次診療の病院で勤務していたこともありましたが、やはりそこでもわからないことはたくさんあり、自分の知識のなさを痛感することになります。そうした経験を重ねるにつれ、内科医としてより深く学び、突き詰めていきたい…という気持ちが強くなり、当時まだアメリカにしか制度がなかった専門医の資格取得を目指しました。

何かひとつが正解ではない。飼い主さんそれぞれの幸せに想いを寄せて

── 日米どちらの臨床現場にも立たれたご経験を踏まえ、アメリカの獣医療の特徴的なところはどのような点だと感じていますか?
とにかく“チーム医療”が徹底されているところは、大きな特徴のひとつではないでしょうか。
これは獣医療に限ったことではありませんが、担当医一人では限界がありますし、間違いも起こる可能性だってあります。だからこそ、他の獣医師でバックアップ体制をとることは必要ですし、あらゆる声を聞くこともとても大切。

このように、いろいろな意見を出し合い、間違いがないかを確認し合いながら“チームで”正しい判断につなげていくアプローチが、アメリカでは当たり前に行われています。


── 日本ではまだそのような体制は浸透していないと感じますか?

そうですね。ですが、今後は日本でもポピュラーにしていかなければならないとも感じています。アジアの専門医プログラムもできたので、近い将来、同じ経験値や知識を持った人が増え、そういった先生方によるチーム医療の体制が整っていくでしょう。

すでにこのどうぶつの総合病院の内科でも、その日に受けた症例は、すべてチームで診て確認する体制をとっています。

大切なのは、飼い主さんにとっての不利益を生まないこと。そして飼い主さんがハッピーになること。万一の間違いを見逃さないよう、チーム全体で日々の診療に臨んでいます。

── ペットの命を救ううえでは、その飼い主さんにとっての幸せも置き去りにしないことが大切なのですね。

飼い主さんのバックグラウンドや経済力、治療への考え方はさまざまで、何かひとつが正解とは限らないですからね。

だからこそ、できる限り治療プランの“選択肢”を飼い主さんに提示することも心がけています。医療的な目線で見たときにベストな治療法はあったとしても、必ずしもそれを選択できる飼い主さんばかりではないので、それぞれのご家族にフィットするものを提示しながら、メリット・デメリットを伝えたうえで選択をしてもらう。アメリカではこれが当たり前の感覚ですし、当院のレジデントの先生方にも、必ずこのように飼い主さんと対峙するよう指導しています。

目指すのは“ドクター”として自ら考えることのできる教育環境

── アメリカと日本の獣医療の違いについて「教育」という側面ではいかがでしょうか。
そこの違いは非常に大きいと思いますね。

アメリカでは、大学4年生の一年間で臨床現場に立つことができます。飼い主さんと会話をしながら問診をし、ディスカッションを重ねることで治療方針を考える。「あなたはドクターになるためにここにいるのだから、自分で考える立場ですよ」と、責任感を培う経験を持たせるんです。

もちろんスーパーバイザーとして教員は付いていますが、「あなたはどうしたい?」と問いながら実践させる臨床教育は非常に優れていると感じます。

── 現在佐藤先生が携わる教育現場にも、そのエッセンスは取り入れているのでしょうか?

はい。このどうぶつの総合病院では、アメリカの教育現場と同じように飼い主さんと対話しながらディスカッションする場を必ず設けています。

なかには大学を卒業したばかりで自信がなさそうな先生もいらっしゃいますが、知識や経験はなくてもここでは“ドクター”。しっかりと責任を持っていかなければいけません。
どう考えているのか、どうしたいのか、そしてそれはなぜなのか?を重視しながら、成長していける教育環境を目指しています。

── では最後に、日本の獣医療の未来を見据え、佐藤先生が大切にしていきたいことをお聞かせください。
獣医療においては、臨床・研究・教育の3つが重要な柱となりますが、なかでも一番大事なのは「教育」だと思っています。この「教育」により力を入れることで、未来の動物医療を次世代につないでいく必要があり、アメリカもこうした意識が強いからこそ、変わらぬレベル感で獣医療が発展し続けているのではないでしょうか。
アジアでのレジデントプログラムもスタートしましたし、私自身が専門医を育てていくことにやりがいを感じながら、より一層「教育」に力を注いでいきたいと思っています。

<プロフィール>

佐藤 雅彦(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター  内科 主任)

◾️学位・称号・資格
獣医師、博士(獣医学)、米国獣医内科学専門医(小動物内科)、アジア獣医内科学専門医(内科)

◾️略歴
2005年
岩手大学農学部獣医学科卒業
2005-2007年
東京都内動物病院勤務
2007-2011年
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程 
2011-2012年
米国Fred Hutchinson Cancer Research Center研究員
2012-2013年
東京大学大学院農学生命科学研究科農学特定研究員
2013-2014年
コロラド州立大学大学院
2014-2018年
コロラド州立大学小動物内科レジデント修了
2018-2020年
東京大学大学院農学生命科学研究科特任准教授

◾️論文実績
論文実績はこちら

◾️受賞歴
日本獣医内科学アカデミー研究アワード2005, 2009, 2011
European College of Veterinary Internal Medicine congress the Best Oral Presentation Award 2009
東京大学大学院農学生命科学研究科研究科長賞 2011
Asian Meeting of Animal Medicine Specialties the Best Oral Presentation Award 2011
American College of Veterinary Internal Medicine forum Resident Research Award 2017

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