自身の可能性を広げるべくアメリカへ。内科専門医、教育者として担う日本獣医療の国際水準化

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター  内科 主任・福島建次郎先生

動物に関わるさまざまな分野のトップランナーにお話を伺う「The specialist」。
今回は、どうぶつの総合病院専門医療&救急センター 内科主任・福島建次郎先生のインタビューをお届けします。
アメリカで高水準かつ国際標準の獣医療に触れ、日本の獣医学教育のレベルアップに力を注ぐ福島先生。
アメリカとの学び方の違いや教育者としての想いなど、未来の日本の獣医療を見据えながらお話くださいました。

日本での学びの日々に閉塞感を感じ渡米を決意

── まずは、内科をご専門に持つ福島先生のお仕事内容についてお聞かせください。

「内科」は非常に幅広い分野を担当する科目で、循環器と神経系以外の診療をカバーします。このどうぶつの総合病院の内科では基本的にアメリカと同じシステムを採用していて、若い先生たちとディスカッションしながらトレーニング、方向付けをし治療の方針を固めていくので、私はそこでのスーパーバイザーとして診療に携わっています。


── 小動物内科の専門医資格をアメリカで取得されていますが、取得に至った背景はどのようなものだったのでしょうか?

大学卒業後、研修医として2年間を過ごしたのちに、8年間教員として仕事をしていました。日々論文を書いたり研究をしたり、といった毎日を過ごしていましたが、ある頃からどこか閉塞感のようなものを感じるようになったんです。このまま日本にいても、いつか自分の到達するであろう“天井”がわかったと言いましょうか…。

そんななか、日本のファンドのサポートによってアメリカに行けるプログラムと出会い、そこにアプライしたのがはじまりです。

以前アメリカの学会に参加したときに、現地の優秀な専門医の先生に感銘を受けたことがあったんですね。そんな経験もあり、アメリカに行くことで自分の可能性が広がるのではないか、と感じ挑戦をしました。

── アメリカで専門医資格を取得するうえで苦労したことはありましたか?

一番苦労したのは、やはり言語の壁です。特に内科は直接飼い主さんとやり取りすることが多いので、同僚のレジデントが問診をする現場に付いていきながら、飼い主さんとのコミュニケーションを学んでいきました。たとえば「クッシング病」だったらこう表現するんだな、というように、彼らがどういう表現でご家族に診療について説明をするのか、ひたすらメモを取りながら覚えていくといった感じです。
あとは、アメリカと日本の獣医学教育が大きく違うため、“応用力”のようなものに大きな差を感じたことも覚えています。

日本では「この病気はこう診断してこの薬を使う」といった直線的な教育をすることが多いのですが、基礎獣医学に重きを置いているアメリカでは疾患の理解を一度生理学・病態生理学に落とし込み、そこから臨床へと展開していくことを学びます。

この差を埋めるには、ことあるごとに“基礎獣医学に落とし込む”ということをしながら、意図的にマインドを切り替えていくしかないんですよね。現地の学生の方に教えるときも、そうしたアメリカの教育に沿った考え方で伝えるよう、常に心がけていました。

思い描いていた診療を「どうぶつの総合病院」で実現

── 専門医資格を取得後、日本に帰国。その後、この「どうぶつの総合病院」で働くことになった経緯をお聞かせください。

先述のように私は特定のプログラムで渡米したため、専門医資格を取得したら帰国しなければいけなかったのですが、やはり日本でもアメリカと近い環境で、かつ次世代の先生への教育ができるような場所で仕事をしたいと考えていました。
そんな私のニーズにマッチしているのがこの「どうぶつの総合病院」だったため、ここで働くことを決めました。


── 実際に働いてみていかがでしたか?

やはり考え方やコミュニケーションの面などで、非常にやりやすいと感じています。
たとえば、ここの先生方には「自分の専門分野を責任を持ってカバーする」というアメリカの考え方が共通してあるので、内科に来た患者さんでも心臓に症状があれば循環器の先生へ、神経の症状であれば神経科の先生へ、いうように、患者さんの受け渡しやコンサルテーションがとてもスムーズなんですね。
みんなで協力し合いながら、最適な治療を患者さんに提供していく。そんな診療が実現しやすい環境だと思います。

── 院内はとてもおだやかで温かい空気感を感じますが、コミュニケーションをとるうえで福島先生が心がけていることはありますか?

アメリカは「褒めて伸ばしていく教育」が良しとされていて、実際に私もアメリカでそのように育てていただきました。
ここはアメリカでトレーニングを受けた先生が多いので、同じように“褒めて伸ばす”メンタリティを持った先生が多いのではないでしょうか。
ピリピリしても何も生まれない。危険な場面こそリラックスして、集中力が発揮できる環境を整えてあげることが大事です。そんなマインドの先生が集まることで、この雰囲気が作られているのかもしれませんね。

国際水準の獣医療を日本にも

── 日本の獣医療現場に立たれて、あらためてアメリカとの違いを感じるのはどのようなところでしょうか?

日本はどうしてもガラパゴス化しやすい環境で、たとえば腎臓に特化した先生でも、ひとたび呼吸器や内分泌のことに話が及ぶとあまり知識がない、というケースも少なくありません。

一方アメリカの内科の専門医は、仮に何かに特化した先生であっても、すべての分野において高いレベルで把握をしていて、深いところにまで理解に及んでいます。各疾患の病態生理、治療薬の作用機序や薬物動体、薬力学などのバックグラウンドまでを理解したうえで、メカニズムとして他の先生に教えることができるんです。
このように、幅広くベーシックな知識を持ったうえで、そこからいかにプラスアルファで伸ばしていけるがとても大切ですし、このような考え方と取り組みは国際的な水準を目指すにおいて私たちの大切な責務だと感じています。


── その責務を果たすうえで、今後取り組んでいきたいことはありますか?

まずは今年7月から始まったアジア専門医制度において、欧米に並ぶような専門医教育を実現していきたいです。
欧米に認めてもらうにはしっかり臨床研究をして、科学的なデータ・情報を発信していくことが大切。

それを続けていくことによって10年後、20年後、欧米の学会でも日本のデータが引用される…。そんな未来を目指して、アジア獣医療のプレゼンスを上げることが目標です。

──  では最後に、これから獣医師(専門医)を目指す方へのアドバイスをお願いします!

当院でも欧米と肩を並べるようなレジデントトレーニングを目指している段階ですが、日本とアメリカの教育においてはまだ開きがある(専門医の数などによる)のが現状なので、より良い教育環境の中で専門医を目指すには、やはり今のところは渡米することをお勧めします。

勇気のいることかもしれませんが、ぜひコンフォートゾーンから飛び出してがむしゃらにやってみてください!

プロフィール

福島 建次郎(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター  内科 主任)

◾️学位・称号・資格
獣医師 、修士(毒性学、臨床科学)、博士(獣医学)、米国獣医内科学専門医(小動物内科)、アジア獣医内科学設立専門医(内科)、第一種放射線取り扱い主任者資格

◾️略歴
2006年
鹿児島大学農学部獣医学科卒業
2006-2008年
東京大学動物医療センター内科系診療科研修医
2008-2009年
東京大学動物医療センター獣医内科学研究室・教務補佐員 
2009-2017年
東京大学動物医療センター第2内科・特任助教 
2017年
東京大学大学院・博士号(獣医学)取得
2017-2018年
コロラド州立大学 大学院・放射線環境科学学部・修士号取得(毒性学)
2018-2019年
コロラド州立大学 小動物内科専科インターン
2019-2022年
コロラド州立大学 小動物内科レジデント修了
2019-2022年
コロラド州立大学 大学院・臨床科学学部・修士号取得(臨床科学)
2022年9月
どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター 内科 主任

2024年 北海道大学 獣医解剖学研究室 客員研究員

◾️論文実績
論文実績はこちら

◾️受賞歴
日本獣医内科学アカデミー 臨床研究アワード2005
日本ペット栄養学会 研究発表アワード
Colorado State University Research Day Oral presentation award 2021

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