~良い画像診断はより良い画像から〜画像検査の飽くなき技術の追求

小動物画像検査トレーナー /  有限会社獣医イメージングサポート 取締役
岩吉 勇さん

動物に関わるさまざまな分野のトップランナーにお話を伺う「The specialist」。
今回は、小動物画像検査トレーナーとしてご活躍されている岩吉勇さんのインタビューをお届けします。X線や超音波の正しい画像診断をするために「検査技術」がいかに重要であるか、徹底した「現場視点」でのお話をお聞かせいただきました。

X線装置の技術サポートの仕事から動物医療の世界へ。

――どのような経緯で現在のお仕事になられたのでしょうか。

1990年に東芝医療用品(株)(現キャノンメドテックサプライ(株))の技術部に入社しました。入社当時、獣医療の専任者を育成する計画があり、私がその担当となりました。

小動物用X線診断装置の設計から生産までの実習を終えたのち、実際にそれを扱う獣医師の先生の立場や仕事をよく知ることが大切、ということになり麻布大学獣医学部獣医放射線学研究室の菅沼常徳教授の下で、獣医画像診断学、X線撮影法、超音波検査法を学びつつ、麻布大学附属病院で臨床の研修をしました。

研修後は工場や麻布大学で学んだ知識と技術を活かしながらX線装置の据え付けや修理に携わると共に、東芝ユーザーである日本全国の動物病院に巡回サービスで訪問し、X線装置の点検や調整などを行っていましたが、新しい小動物用X線診断装置と小動物用超音波診断装置の開発を命ぜられ、再び麻布大学の菅沼教授の指導を受けながら研究開発に従事しました。

そんなあるとき、大学にある小動物用X線装置で、実際にどういう撮影方法でどのように動物を診断しているのかなどの臨床を学ぶ中で、気づいたことがありました。それは、どんなに良い装置があっても画像を正しく撮ることができなければ、正しい診断ができないということ。

獣医師の先生は、X線画像や超音波画像を診て診断し治療することが仕事です。しかしその画像がきちんと撮れていなかったら、診断を誤る可能性もある。そう思った時に、自分はメーカーとして装置を製造・販売するだけでなく、それを活かし正しく画像を撮像するという技術面でもサポートしていかなくてはと感じたのです。

――それで「獣医イメージングサポート」を設立されたのですね。

はい。その後しばらくは東芝で獣医療におけるX線、超音波、X線CT、MRIの技術面の仕事に従事していましたが、私が現場で感じる獣医師の先生方の撮像に関する困りごとを解決するためには、会社にいるとできないと思い辞めました。

その時は「誰かがやらなきゃいけない!」という思いが強かったんです。儲かるか儲からないかという話ではなく。

――大きな決断ですよね。岩吉さんの背中を押したものはなんでしょうか。動物の命を救いたい?

もちろん動物の命の大切さは大前提ですが、それよりも私を突き動かしたのは「使命感」とでもいうのでしょうか。獣医師の先生が良い診断をするために技術面でお役に立ちたい、私の思いはそれ一つだけでした。

正しくX線や超音波画像を撮れるようになれば、結果的に動物にそれが反映される。

それには検査の現場で獣医師をサポートすることがどうしても必要だと考えたのです。

獣医師も学ぶ機会が少ない画像検査技術

――ご自身の会社をスタートされていかがでしたか? 

独立する以前にも感じていましたが、獣医師の先生方はX線や超音波の検査技術について学ぶ機会が少なく、多くの先生方が独学に近い形で行っているということを目の当たりにしました。実際に獣医師の先生にお聞きしても、「実はX線やエコーの検査に自信がない」という声が多い。

これは、獣医療の構造上仕方がないことなのですが、人の医療とは違い「診療放射線技師や臨床検査技師」という職業が無いため、獣医師の先生が自ら画像検査を担当しなくてはいけない。しかし大学でも獣医師になってからも画像検査技術を学ぶ機会は本当に少ないんです。

このような課題に対して、私自身が画像検査のサポートをするだけでなく、よい画像を撮る技術について学ぶ機会を設けることが必要だと考えました。

――それでセミナーや動画での教育コンテンツを充実させていったのですね。

はい、動物病院に出向いて行う実習セミナーや、忙しく時間がない獣医の先生も好きな時間に学習できる動画配信サービスをスタートしました。一人でやっているので時間はかかりましたが、現場の先生方の声を聞きながら自社のサービスを作っていくことができるのは私にとってもありがたいことでした。

獣医師の先生が超音波の練習する場合、動物と保定者が必要なので、練習したくてもなかなか機会を作ることが難しいのです。そのため、実際の動物をモデルにした腹部エコーや心エコーの実習は非常に好評です。

――獣医師の先生からはどのような声がありましたか?

どの先生にも言っていただくのが「わからないことを聞きやすかった」ということです。私が獣医師ではなく画像検査技術の専門家なので、ささいなことでも聞きやすいのだと思います。

「X線や超音波検査に自信が持てるようになった」という声もよくいただきます。

X線装置、超音波装置の技術を専門としてスタートし、数々の動物病院で多くの症例の検査に携わったことで点と点がつながって線となり、加えてセミナーなどで約1500人以上の獣医師の先生方に超音波検査の手技を伝えてきた経験が、新たな線となってつながった結果“面”となった。このことで、獣医師の先生方に信頼をよせて頂いたのではないかと思っています。この“信頼”が私の強みになっていると感じています。

エコー検査の未来に向けて、構想を形に

――小動物画像検査トレーナーとして、新たな取り組みもされているとお聞きしました。

超音波(心エコー・腹部エコー)の個人レッスンスクールを開講しました。エコーに対して苦手意識がある先生方も多い一方で、実際に動物を使ってじっくり学ぶ機会が少ないのが現状。そこで実習犬を使った対面式、マンツーマンのレッスンなら気兼ねなく受講できて、苦手な部分を徹底的に強化できると考えて「個人レッスン」にしました。忙しい先生方もお休みの日や仕事終わりに通えるよう、自分でレッスン枠を選べるようになっています。

「自信がつくまでとことん向き合う」をテーマに、獣医師の先生方の苦手を取り除くことができたらと思っているので、若手の先生からベテランの先生まで、気軽に参加いただけたら嬉しいですね。

――岩吉さんの軸である「獣医の先生の役に立つ」ことを起点にさまざまなサービスが生まれているんですね。

はい、そして実はもう一つ大きなプロジェクトが進んでいます。まだ公表はできなのですが検査技術のプロとしての私の集大成と言える開発に取り組んで込んでいます。

この開発も、先生方のお役に必ず立てるものと信じて突き進めています。

――今後の展望を聞かせてください。

新たな開発や販売がまず目の前の大きな目標ですね。それから今後、私のような仕事を愛玩動物看護師さんの仕事に定着させていくことも目指したい未来です。

先日より、獣医師・愛玩動物看護師さん向けのセミナー会社さんと組んで、愛玩動物看護師さん向けの超音波セミナーを始めました。こうした取り組みを通じて、最終的には愛玩動物看護師さんの中から私のようなX線や超音波検査のスペシャリストを育成できたらと思っています。

<プロフィール>

岩吉 勇(有限会社 獣医イメージングサポート 取締役 /小動物画像検査トレーナー)

1967年5月生まれ 東京都出身 

1990年 東芝医療用品(株)技術部に入社

東芝独自のシステムである動物の体重と撮影部位を選択するだけで診断価値の高い X線画像を撮影できる新型モデルの開発に従事。入社と同時に麻布大学獣医学部獣医放射線学研究室の菅沼常徳先生に師事。小動物臨床における画像診断学を学ぶ。

2003年 有限会社獣医イメージングサポート設立

獣医画像診断学を学ぶ中で、今後は画像診断学を支える技術面のサポートが必要になると感じ会社を設立。「良い画像診断は、より良い画像から」をモットーとし活動を開始。 

2004年 日本小動物医科学研究所(現 公益財団法人日本小動物医療センター)画像診断科の技師長に就任

日本で初めてX線、超音波、CT、MRIの撮像を専門とするテクニシャンとして臨床に携わる。また日本全国の獣医師会、獣医大学、動物看護師養成学校での講演や実習を行う。 

2007年 パーソナルコンピュータ利用技術学会で研究奨励賞を受賞 

日本で初めて動物看護師の資格を有しながら診療放射線技師の国家資格を取得した人材の育成を果たす。 

2009年 セミナー事業開始

獣医師向けに心エコー/腹部エコー実習セミナーを立ち上げ、のべ1,500名以上の獣医師に講義。全国の動物病院でも超音波検査法の出張セミナーをのべ120件以上開催。 

現在

小動物画像検査トレーナーとして獣医師・愛玩動物看護師への教育サービスの提供や画像検査に関わるシステムの研究開発、獣医療分野での画像検査技術の向上に尽力している。 

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