選んできたのは「楽しい!」と思える道。院長と神経科専門医 ふたつの顔で組織をリード

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター 院長 / 神経科 主任・金園 晨一先生

動物に関わるさまざまな分野のトップランナーにお話を伺う「The specialist」。
今回は、どうぶつの総合病院専門医療&救急センター 院長 / 神経科 主任・金園 晨一先生のインタビューをお届けします。
院長として組織のけん引や次世代の育成に力を入れつつ、やっぱり診療が好き!と目を輝かせる金園先生。院長、そして臨床獣医師というふたつの顔で、自組織のみならずアジア全体の獣医療発展を目指します。

オールマイティでなければプロではない?獣医師を目指す私が感じた、とある違和感

── 「どうぶつの総合病院」の院長でもありながら、神経科の専門医としても臨床現場に立たれている金園先生。まずは日々のお仕事内容についてお聞かせください。
やはりまずは院長として院内でさまざまなことをまとめたり、何か問題が起こったときに対応したりといった役割を大きく持ちます。
とはいえ決してデスクワークが好きなわけではないですし、やっぱり私は診療・手術が好きなんですよね。また、院長としても実際の臨床現場に立ちながら看護師さんや現場スタッフと同じような感覚をある程度保つことは、とても大切だと感じているんです。
上の立場で座っているだけではわからない問題ってたくさんあって、なるべく同じ感覚を持ちながらみんなの主張に耳を傾ける。そのうえで優先度をつけて決めていくことが必要だろうと。
患者様を守る獣医師として、そして病院のスタッフを守る院長として、それぞれの立場でしっかりと責任を全うする。そうでないと長く続けることはできないですし、自分自身でも充足感を感じることも、「ありがたいな」と思ってもらうこともできないと常に思っています。

── 2013年にアメリカで専門医の資格を取得されていますが、そこにはどのような背景があったのでしょうか?
獣医療を学んでいた学生時代、「オールマイティに診療するのが獣医師としてすばらしいことである」といった考え方に触れることが少なくなかったのですが、私はこの考えに違和感を感じていました。
「獣医師はプロフェッショナルなんだから、すべての分野で診療できないといけない」と口にされる先生もおり、となると、やったこともないことすらできないといけないのか?そんなわけないだろう…と。先生としては学生たちを鼓舞するための言葉だったのかもしれませんが、私自身いろいろと勉強していくなか、これらすべてをいつまでも覚えてろと言われてもそれは無理だと感じたんです。リアリティを反映していないし、発展する要素も持ち合わせていない。さらには、できないことをできると言って虚勢を張っている自分の姿をイメージしてしまいました。そんな違和感は、専門医資格の取得に向けて私を動かしたひとつとなったと思います。
また、当時アメリカの先生が登壇するセミナーに参加したことがあったのですが、話がクリアでわかりやすく、そのおもしさに衝撃を受けたんです。自分もあんなふうになりたい!とそのときに強く思ったこともアメリカへ渡るきっかけとなりました。

── アメリカ行きについて悩むことはありませんでしたか?
幼いころからわりと行き当たりばったりで、あまり深く考えたり人に相談したりすることもなく選択を繰り返してきたので、アメリカ行きについてもそれほど悩むようなことはなかったように思います。
最後には、当時の恩師の言葉「前のめりに生きなさい」の一言でアメリカ行きを決めました。倒れることを心配していても前に進めないし、どうせ倒れるなら後ろ向きじゃなくて”前向き”に。「別に失敗してもいいじゃん」といったマインドを私に教えてくださり、たしかにそうだな…と、そこからは何も考えずにアメリカへ渡りました。

新しい風を吹かせながら、次の世代へバトンタッチを

── 専門医資格の取得に向けて、慣れない地での学びだったかと思います。苦労したことなどがあればお聞かせください。
苦労はたくさんありましたが、それ以上に楽しさが勝る毎日でした。今もよく「アメリカに行くと大変ですよね…?」と相談を受けることがありますが、実際日本にいても大変なことはあるんじゃない?って思うんです。大変なことの“質”と“タイミング”が違うだけで、日本にいるから大変じゃないことなんてないですよね。
どこにいようと、苦労を避けるより自分が「楽しい!」「乗り越えたい!」と思える道を選んできたので、当時の自分も苦労しているとはあまり感じていなかったように思います。

── どの時代もご自身の「楽しい!」を大切にされてきた金園先生が、未来に向けて取り組んでいきたいことはどのようなことでしょうか?
まずひとつには、次の世代へしっかりとバトンを渡していくことです。ベテランが担った方が良い部分もありますが、それをいつまでも続けていると若手の先生の成長を妨げてしまうことにもなるんですよね。もちろん、患者さんの安全のためを思うと、何でもかんでも「やってごらん」というわけにはいかないのですが、少し横にずれてあげるようなイメージで若手の先生が活躍できる場を作りつつ、次世代のリーダーを育てたいと思っています。

── 院長という立場ではいかがでしょうか?
組織が硬直しないよう、常に新しい風を入れていくことを意識し続けていこうと思っています。やはり新しい人が入ることによって今いるメンバーの背筋も伸びますし、新しいアイデアが出ることで世代交代にもつながるでしょう。

反対に、今この「どうぶつの総合病院」で働いている人材が新しいフィールドでチャレンジすることになったら「がんばれ!」と言って送り出したいんです。またその先に新しい風を入れることができるだろうし、ここで学んだことを活かしながら、ぜひ次世代のリーダーとして活躍してほしい。うちだけがいい組織になりたいわけではなく、良い組織がどんどん広がっていくことを願って、内外問わず組織の発展に向けて役に立てればと思っています。

光を宿すのはこれから。自分たちで磨き上げるアジア獣医専門医資格

── 近年ではアジア獣医専門医の資格制度も発足しました。 アジアの獣医療の発展に向けては、どのような思いをお持ちですか?
制度としてはまだできたてホヤホヤ。資格そのものに光があるわけではなく、それをいかに”磨いていくか?”が私たちの仕事だと感じています。専門医資格を持つことで名誉職のようにとらえられることもあるのですが、私はむしろ逆だと思うんですよね。いかに優秀な人材が育っていくかで、その称号の価値が決まっていくものなのだろうと。
この制度発足を機に、韓国、タイ、シンガポール、台湾などいろいろな国と同じ目線で交流することができるようになります。そうした交流を活かしながら、この称号をどんどんと光らせていければと思います。

── では最後に、これから獣医師(専門医)を目指す方へのアドバイスをお願いします!
好きだからこそ懸命に勉強し続け、それを仕事にできるはず。結果的に人の役に立ち、自分の役にも立ち、社会貢献にもつながり…と、専門医はこうしたところにやりがいがあるものです。一方でいろいろな分野の診療を目指したい方は、専門医でなく一般の先生の方が向いているかもしれません。
いずれにしてもぜひ楽しみながら、思い切ってご自身の道を進んで行ってください!

プロフィール

金園 晨一(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター  院長 / 神経科 主任)

◾️学位・称号・資格
獣医師、米国獣医神経科専門医 DACVIM (Neurology)
アジア獣医神経科専門医 DAiCVIM (Neurology)

◾️所属学会
American College of Veterinary Internal Medicine
Asian College of Veterinary Internal Medicine
日本獣医神経病学会 理事・評議員

◾️略歴
2004年
岩手大学農学部獣医学科卒業
2013年
University of Missouri, College of Veterinary Medicine
神経科-神経外科レジデント修了
米国獣医神経科専門医取得
2013年
埼玉動物医療センター神経病専門外来
2016年
当科主任
2021年
どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター 病院長

◾️論文実績
論文実績はこちら

◾️学術活動
学術論文審査員
Frontiers in Veterinary Science
Journal of Small Animal Practice
Journal of Veterinary Medical Science 他

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