犬を研究しているはずなのに、話はやがて「人」へ、そして「社会」へと広がっていく。
動物行動学の専門家として第一線に立つ増田先生の言葉には、そんな独特のスケールがあります。
研究者であり、教育者であり、そして企業の現場にも関わる存在。
その活動の根底にあるのは、犬という存在を通して「人とは何か」を問い続ける視点でした。
固定観念にとらわれない発想と、そこから生まれる示唆は、ペットビジネスに関わる人にとっても新たなヒントとなるはずです。
すべては、一人の先生への憧れから
――動物行動学に惹かれたきっかけを教えてください。また、その原点となった先生についても教えていただけますか。
もともとは牛を研究していました。日本で本格的に動物行動学の研究室ができたのが1991年で、私が大学院に入る9年前なんです。まだ全然広まっていない分野でした。その中で、この分野を広めたのが、森裕司先生です。
森先生はもともと繁殖学で有名な先生だったんですが、その先生のもとで学びたいと思ったのがきっかけです。私が大学院に進学した頃にはすでに動物行動学に移られていて、それでこの分野に入りました。
入って2日目に呼ばれて、『犬の研究を始めたばかりで、卒業まで一番時間があるのは君だからやってくれないか』と言われて。それが犬を専門にするきっかけです。憧れの人にそんなふうに声をかけてもらえたのは、本当に嬉しかったですね。
――森先生はどのような方だったのでしょうか。
本当に大らかで、優しい先生でした。難しいことを難しく書かないんです。でもすごく深い。読むたびに違うことを教えてくれる文章を書く方でした。
大学の中でも有名な先生で、名前を出すと誰もが知っているような存在でしたし、悪く言う人が一人もいないような先生でした。実際にお会いして、一気に惚れましたね。この人すごいなって。
――その先生から受けた影響は、現在のご自身にもつながっていますか。
つながっていると思います。森先生の文章って、勉強してから読むとまた違うことを教えてくれるんですよ。前に読んだときとは全然違う気づきがある。
なので、自分もそういう文章を書かなきゃいけないと思っています。自分にしか書けない世界観を書いて、それを磨き続ける。そういうスタンスも影響を受けた一つです。
研究は“ニヤニヤしながらやるもの”

――研究者であり教育者でもある立場ですが、大切にしていることはありますか。
研究は、ニヤニヤしながらやるものだと思っています(笑)。これ面白いなと思いながらやる。その結果がどう評価されるかはあまり気にしていなくて、『こんなこと分かったから、よかったら使ってください』ぐらいの気持ちです。
教育については、教師一家で育った影響が大きいですね。父は中学校の数学の先生、母は高校の英語の先生で、家の中でもずっと教育の話をしている環境でした。地域の先生たちが家に集まって話をするような、そういう環境で育ちました。
その中で、どこを指摘するか、どこを伸ばすか、という感覚は自然と身についたと思います。
「今どきの若者」は、本当に扱いづらいのか

――大学で若い世代と接する中で、いわゆるZ世代について感じていることはありますか。
世代ごとに特徴ははっきり違います。たとえば一つ前の“ゆとり世代”は、責任を任されることを嬉しいと感じる世代でした。自分で決めて責任を取ることに価値を感じる。
一方でZ世代は、“みんなで一緒にやる”ことがとても上手です。グループで考えて形にする力が、どの世代よりも高いと思っています。
――Z世代は扱いづらいと言われることもありますが。
扱いづらいわけではなくて、特性が違うだけです。Z世代は責任を押し付けられるのは嫌いですが、チームで考えることは非常に得意です。
たとえば、10歳ぐらい上のゆとり世代が少し離れたところで見守りながら、Z世代がチームで考える環境を作ると、ものすごくうまくいきます。“何でもできる個人”ではなく、“何でもできるチーム”を作れる世代です。
――企業にとってもヒントになりそうですね。
そうですね。責任を押し付けるのではなく、『一緒に作ってみて』という環境を作ることが重要です。実際、うまくいっている企業はすでにその形を取っています。
ペットビジネスは“なんでもやってみる”が面白い

――様々な企業からご相談の声がかかる増田先生ですが、異業種からのペットビジネス参入についてはどうお考えですか。
基本的には、気をつけるべきところだけ伝えて、あとは自由でいいと思っています。ペットだからこうでなきゃいけないと考えすぎると、発想が広がらないので。
――慎重に考えがちな企業が多い印象ですか?
そうですね。特に大きな企業ほど、気をつけるべきことをリスト化して持ってきますから(笑)。でも、そこまで考えなくていいと思っているんです。
ペットの世界は、人と動物、両方の生活が関わるとても広い領域です。ビジネスを成立させようと思ったら、広くて深い知見がどうしたって必要になってくる。それを自社だけで全部やろうとするのは無理があります。そのために私たちのような専門家や、ペットビジネスの支援会社がある。得意なところを持ち寄ってやればいいんです。
――新しい発想はどのように生まれると考えていますか。
“こうでなきゃいけない”という枠を一度外すことではないでしょうか。その固定観念ってどこからきているのか?と考えてみると、意外と何も出てこないんです。
なので、まずは“楽しさと優しさだけ”で考えてみる。それだけでいいんじゃないかと思うことが多いです。
犬は、人を平和へ導く存在になり得る
――最後に、これから目指したいことを教えてください。
犬を研究しているのは、犬そのものを知りたいからだけではないんです。犬って、人間にとって愛することのお手本であり、平和に向かうナビゲーターのような存在だと思っています。
犬は、飼い主がどんな人かを映し出す“魔法の鏡”のような存在でもあります。その中で、犬が向けてくる“一生懸命さ”って何なのかを知りたいんです。
――人間の“頑張る”とは違う、ということですか。
そうですね。人間の一生懸命は少し「苦しさ」が混ざっている時もありますが、犬は違う。
飼い主が大好きで一生懸命向き合っているし、楽しくて仕方なくて一生懸命遊んでいる。
その違いを科学的に明らかにできれば、人間はそれを真似することができます。そうすれば、もっと平和な社会に近づくと思っています。
――犬の研究が、人間社会の平和につながる。
そんな人間ばかりになったら、世の中に争いなんて起きなくなる。それを残りの研究人生で明らかにしたいと思っています。
動物行動学の視点を取り入れた商品開発や情報発信、セミナー登壇などのご相談も可能です。
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