株式会社ベネッセコーポレーション
『いぬのきもち』『ねこのきもち』副編集長 兼 いぬねこメディア統括ディレクター
持田 武資さん
今回お話を伺ったのは、株式会社ベネッセコーポレーションの持田武資さんです。
創刊から20年以上、多くのペット愛好家に親しまれている『いぬのきもち』『ねこのきもち』の副編集長に加えて、デジタルメディアやtoB施策まで横断したコンテンツディレクターを務める持田さん。誌面からWebへ、マスからパーソナルへとメディアの在り方が変化しつつある今、ペットメディアを運営するうえでカギを握るものとは?
これまでのご経験を振り返りながら、たっぷりとお話いただきました。
ペットとの別れ、後悔…自身の原体験をきっかけにペットビジネスへ
── まずは、持田さんがペットビジネスに携わるようになったきっかけや背景をお聞かせください。
子供のころから動物が好きで、実家では長い間ポメラニアンを飼っていました。ですが当時の自分は、粗相をしたときには叱ってしまったり、定期的に健康診断にも連れていってなかったりと、ペットとの暮らしにおいて大切な知識を何も持っていない飼い主だったんです。
結局そのコの最期は、ひどい咳、そして動物病院に連れて行ったときにはすでに手遅れ…といった状況で迎えることに。私はものすごく後悔し、それと同時に強烈なペットロスに陥ってしまいました。
「もしもっと深い知識を持って一緒に暮らしていれば、結果は違っていたかもしれない」
そんな、あのとき抱いた後悔の念が今の私の仕事へとつながっています。
── 他のペットや飼い主さんには、自身と同じ体験をしてほしくない。そんな思いで?
そうですね。飼い主さんにきちんとした情報を伝えることで、しっかりと終生飼育につなげてほしい。そして、私はその後しばらくして今のコを迎えたのですが、やはりペットとの生活はすばらしいと感じたので、まだペットを飼ったことのない方にそのすばらしさを伝えたい。
その両者の方たちへの想いで、社内公募に手を挙げ今の仕事に就きました。
また、それまでは女性向けファッション誌や妊娠・育児系雑誌の編集に携わっていたため、直接自分がターゲットというわけではなかったのですが、ペットビジネスはまさに自分がターゲット。
そうなると、そこにはどんな景色が広がっているのだろう?といった興味もありました。

メディアは読者と広告主との“橋渡し”
── ペットメディアとして、紙媒体からWebへの転換という挑戦もされてきたと思います。振り返ってみて、成功につながった施策や取り組みなどがあればお聞かせください。
キーワード分析や飼い主さんへのアンケートや取材をとおして、読者の検索意図やニーズへのSEO把握に注力したところがひとつの成功ポイントだったかもしれません。
たとえば、当時「猫 かわいい」の月間検索ボリュームが高かったのに対し「犬 かわいい」はそれほどでもなく、かわいい動画や写真で癒されたいのは、犬よりも猫の飼い主さんの方が多い傾向にある、というように、それまで見えていなかったさまざま気づきを得ることができました。
このように、同じペットでも犬と猫では飼い主さんの感じ方に大きな違いがあると知ることはとても大切なんですよね。
── 反対に、これは失敗だった…といったエピソードはありますか?
流行りに乗ったワードや切り口を使ったコンテンツが、飼い主さんの心をつかめなかったことがありました。あくまで犬や猫を“大切に思っている”という姿勢が大切なんだと実感しましたね。
ビジネスとして数字は追いながらも、媒体の方針である「生態を理解して、犬や猫のためになること」「飼い主さんのきもちに寄り添う」といった軸はしっかりと守る必要があるということを学ぶきっかけにもなりました。
── 広告施策の場合、良いコンテンツを作ると同時に売上も上げなければならないなか、“読者のニーズ”と“クライアントニーズ”のバランス調整も大変だったのではないでしょうか。
そうですね。ただ広告主にとって良いものは読者にとっても良いはずで、ゴールは一緒。私たちはある意味その橋渡しのような存在なのでは?と思うんです。
読者が求める情報はもちろんのこと、そこには広告や協業などが不可欠で、この両輪があってこそですからね。私自身、良い意味で”広告依存度が高い”ファッション誌の編集を経験してきたので、それは今でも根付き、活かされているマインドだと思います。

メディアが変わりつつある今、カギを握るのは“データ収集”
── 日々の生活や趣味の中で、仕事にインスピレーションを与えるものがあれば教えてください。
恥ずかしながら趣味らしい趣味はないのですが、日常の全てがインスピレーションになっているのではないでしょうか。愛犬とのお出かけはもちろん、時間があればふらっとペットショップに行ったり、実家に行けば猫と遊んだりと、オンもオフも自然と吸収の場となり、それがリフレッシュにもなっているように感じます。
別の媒体を担当しているときも同様だったのですが、そう考えると楽しい仕事ですよね。
── すばらしいですね!そんな持田さんが、これから挑戦したいことはありますか?
子供の成長やお年寄りの健康寿命などに良い影響を与えられるペットコンテンツの可能性をもっと広げて、人の一生になくてはならない価値として、世の中に伝えていきたい。
そしてそのためには、メディアの枠を超えた各所との連携、企業様や教育・医療現場とのシナジーも強化していきたいと考えています。
結局私が求めているのはベネッセの理念と同じなんですよね。
犬や猫と飼い主さんの“よく生きる”をサポートして、人と社会が豊かになることを目指す。まさに「いぬのきもち」「ねこのきもち」のブランドスローガンである「Support Animal Emotions」にも通じていると、あらためて感じています。
あと、仕事というより個人的なライフワークとしては、ペットロスについて掘り下げた取材をしてみたいと考えています。ペットフード協会の調査では毎年、ペット飼育の阻害要因として「別れがつらいから」が上位に上がっています。以前、あるフードメーカーさんの広告で「死ぬのが怖いから飼わないなんて、言わないで欲しい」というコピーがありました。私自身まだ答えは出ておりませんが、命に向き合う活動をしたいと思っているところです。
── 最後に、同じペット業界に携わる方に向けて、業界発展に必要な考え方やこれからのメディアの可能性についてメッセージをお願いします。
もはや情報は無料、かつマスメディアという概念はなくなってきていて、“個別にどうアプローチしていくか”が大切な時代です。このようにメディアの在り方が変わって来ている今、いかに情報をパーソナライズ化できるかが鍵と言えるでしょう。
そのために飼い主さんのニーズを深堀り、ニーズをとらえたコンテンツ、サービスを通して登録者を増やす…。読者やユーザーのみならず、クライアントニーズもここにポイントがあると認識していますが、そこは私たちの媒体の強みでもあるのではないでしょうか。
そしてそのときに立ち返るのは、やはり飼い主さんや犬、猫、そして世の中の声に寄り添うということだと思います。
プロフィール
持田 武資(もちだ たけし)
株式会社ベネッセコーポレーション
「いぬのきもち」「ねこのきもち」副編集長
いぬねこメディア統括ディレクター
1972年生まれ。東京都出身。
早稲田大学卒業後、出版社で海外旅行ガイドブック、女性ファッション誌、妊娠育児誌編集等に従事。2007年ベネッセコーポレーションに中途入社。生活情報誌、子育てグッズ通販誌、教育情報誌編集等を経て、16年より「いぬのきもち」「ねこのきもち」の雑誌編集、WEBコンテンツ制作。18年より現職。現在はtoB向け施策、広告コンテンツのディレクションを担当。愛玩動物飼養管理士。愛犬は13歳のトイ・プードルの女の子。