『ペットのバリアフリー社会』を、ビジネスを通じて実現したい

株式会社西武ペットケア
代表取締役社長 田中 健司さん

今回お話を伺ったのは、株式会社西武ペットケア 代表取締役社長の田中健司さん。

さまざまなペットケア事業を展開する原動力となるのは、幼いころに自身が過ごした、ペットとの笑顔あふれる暮らしだと話します。

ここでは、田中社長がペット業界へ飛び込んだきっかけや、実現させたい世界などについて伺いました。

ペット飼育における課題解決を目指しアルバイトからスタート

── まずは田中社長ご自身のペットとの出会いについてお聞かせください。

物心ついたころから番犬を飼っていたのですが、ペットがより“家族”のように大切な存在となったのは、その番犬が亡くなったあとに小型犬を飼い始めたことがきっかけでした。


もちろん先代の番犬もかわいがっていたのですが、その愛おしさのレベルが違ったと言いますか…。次に迎えた小型犬も番犬にするつもりで飼い始めたのですが、あまりのかわいさに外で飼うことができず、家の中で一緒に暮らすことになったんです。


ウサギやひよこなどそのほかの動物にも囲まれながら過ごし、私にとって“ペットとの暮らし”はもはや当たり前のようなものに。やがて私は実家を出ることになりますが、「いつか犬を飼おう」と心に決めて社会人になったことを覚えています。


── 現在のお仕事に至った背景はどのようなものだったのでしょうか。

新卒で大手の住宅設備メーカーに入社したのですが、自分には合っていない気がして転職を検討したのが、今の仕事につながるはじめの一歩です。


時代はちょうど“ITベンチャー”ブーム。とはいえ、私はデジタルの世界で生きてきたわけではなかったため、デジタル以外で何かイノベーションを起こす領域はないか?と考えるなか出会ったのが、当時「ペット共生集合住宅」の事業に取り組んでいた、当社の前身企業であるアドホック株式会社(以下、アドホック)でした。


そのころ私はマンションで犬を飼っていたのですが、無駄吠えが気になったりエレベーターも遠慮しながら利用したりと、どこか窮屈な思いでいたんです。アドホックが実現させようとしている世界は、まさに私が感じていた“都心でのペット飼育の難しさ”を解決するもので、こんなにおもしろい会社があるんだ!とアルバイトからジョインさせてもらったのが2003年。ここから、私のペット業界での仕事がスタートしました。

── ご自身が実際に感じていた違和感がきっかけとなったのですね。
はい。子どものころはもっと気楽に、難しく考えなくても犬と暮らすことができていたのに、大人になってペットと暮らしてみると移動や外食、旅行など、一緒にできることが増えた一方で一つひとつがとても大変。ペットと暮らすことは「とても難しいこと」になってしまったのです。

のちに社長に就任、そして西武グループへ入ることになりますが、売り上げを上げる、店舗数を多くするなどの事業としての目標を持ちつつも、とにかく私はこれらの課題を解決したかった。

そしてこの思いは、現在の我が社のミッション「人とペットがともにすこやかに暮らすための環境づくり」の礎にもなっています。

一貫してこだわるのは“スーパー自責思考”

── アルバイトとして入社したその4年後、30歳という若さで社長に就任されました。“リーダーシップ”という観点でこれまでのご自身を振り返るといかがですか?「リーダーシップとは?」のように体系的に学んだこともないですし、若いときは本当にやんちゃで世間知らずでした。恥ずかしながら社員にストライキを起こされたこともあり、どうにかお店を開けなければと、従業員の「土下座してください」の声に応えたこともあるほどです。
ですがその経験は、“正しいこと”を言っていればそれでOKというわけではない、ということを学ぶ機会にもなりました。たとえ真っ当なことを話しているつもりでも、言い方や伝え方を間違っているとこうもなるのか…と痛感しましたね。それ以降、伝え方には人一倍、気を遣うようにしています。
実は今も「リーダーシップ」を持たねば、などという意識はなく、こうした経験から学んだことを少しづつ積み重ね、活かしているまでなんです。

── 組織をけん引する立場として、大切にしているモットーはどのようなことでしょうか。
私は常に「会社で起こるすべてのことは自分に原因と責任がある」と考えています。
なにごとも絶対に他責にしない“スーパー自責思考”ですね(笑)。この当事者意識が私にとってのリーダーシップのベース、そしてモットーと言えます。
私たちが実現させたいことをしっかりと自分の言葉で語り、それをみんながそれぞれの役割を通じて支えてくれる環境を作ることが真のリーダーシップ。それがうまく回っているかを確認するのがマネジメント。この違いをしっかりと意識しながら、自分自身にも部下のメンバーにも「自分ごとになってる?」と常に問うようにしています。

── まさに駆け抜けた約20年だったかと思いますが、プライベートとのバランスはどのようにとってきましたか?
若いころはプライベートはほぼゼロでしたね。
会社が少しずつ安定してきてからは、仕事仲間と飲みに行ったりゴルフや釣り、サウナ、ジムに行ったりと、ようやく自分のやりたいことに時間を使えるようになりました。
とはいえ私は、プライベートも常に全力です。街に出て多くの人に会うことでさまざまなことが吸収できますし、お客様の気持ちがどう動いていくか?などに気づけるきっかけにもなる。プライベートが充実していることは、結果的に仕事へも良い影響ももたらしてくれると思っています。

子どものころの原体験からミッションの実現へ

── ペット業界の未来を見据えて感じていること、それを踏まえて田中社長が目指す世界はどのようなものでしょうか?
今、日本ではペットの飼育頭数が減少し続けていて、業界全体に元気がなくなっています。それにともないあらゆる商品やサービスの量的なマーケットが小さくなりつつあり、それぞれの単価を上げることで保っているというのが現状でしょう。

ですがそれにも限度がありますし、なにより“単価を上げる”ということは、犬を飼うことをより難しいものにさせてしまうとも言えます。
ここで行き着くのは、やはり子供のころの私の原体験なんですよね。そんなに難しいことをしなくても楽しく犬を飼えていたあの世界をもう一度つくりたい。そして、ペットとともに過ごす豊かな生活を次世代にもつないでいきたい。それができたら、いろいろな意味でみんながハッピーになるだろうと思っています。

── まさにミッションの実現につながるわけですね。そこに向けた取り組みをあらためてお聞かせください。
人とペットの共生社会の実現には、ペットを飼わない方や苦手な方にも受容してもらうことが重要です。そのためにはペットが清潔であること、そして噛みつくなどの迷惑行為となるようなことを未然に防ぐことが大切です。
つまり、正しくしつけられ、衛生的でかわいらしいワンちゃんでいられれば、ペットが苦手な人やアレルギーのある人とも同じ街のなかで楽しく暮らすことができるはずだと考えているんです。私たちはそんな街づくりのために「PET-SPA」の事業をますます広げていきます。
そしてもうひとつ、力を注いでいくのが「PET SMILE PROJECT(ペットスマイルプロジェクト)」です。
鉄道やホテルなど西武グループならではの多種多様な事業と連携しながら、目指すのは『ペットのバリアフリー社会』の実現。西武線沿線や西武グループが関わる地域がより“ペットと暮らしやすい街”になるよう、これからもさまざまなサービスを展開していきます。

プロフィール

田中 健司(たなか けんじ)

株式会社 西武ペットケア 代表取締役社長

株式会社 西武ホールディングス 経営企画本部 西武ラボ 部長

一般社団法人 日本ペットサロン協会 監事

立命館大学を卒業後、大手住宅設備メーカーを経て、2003年にペット関連ベンチャーのアドホック㈱(現 ㈱西武ペットケア)入社。

2007年より同社代表取締役。2008年に株式譲渡により、西武グループの一員に。

PET-SPAをはじめとしたペットサロン・ペットクリニックを首都圏中心に27店舗展開するほか、

2013年には日本初のペットサロンの業界団体「一般社団法人日本ペットサロン協会」の立ち上げに尽力し、初代の理事長を務めるなど、ペットサロン業界全体の健全な発展とトリマーの社会的地位向上にも関心が高い。

また、西武ペットケアの社長を務める傍ら、2017年からは西武グループの新規事業創出を担う西武ラボの部長に就任。

新規事業企画・開発、マーケティング、オープンイノベーション推進にも知見を有する。

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