ペットのQOLに寄り添いながら、包括的ながん治療を届ける

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター 放射線腫瘍科 主任・吉川 陽人先生

動物に関わるさまざまな分野のトップランナーにお話を伺う「The specialist」。
今回は、どうぶつの総合病院専門医療&救急センター 放射線腫瘍科 主任・吉川陽人先生のインタビューをお届けします。

ある日のセミナー参加をきっかけに、放射線腫瘍学に魅了された吉川先生。
ペットとそのご家族に寄り添った医療を日々提供しつつ、専門医として、日本の獣医療における放射線治療の発展を目指します。

“目に見えないもの”で治療を施す。これが放射線腫瘍学の魅力

── まずは現在の吉川先生のお仕事内容についてお聞かせください。

「どうぶつの総合病院」の放射線腫瘍科のドクターとして、がんと診断された、あるいはその疑いのある犬猫の放射線治療を行っています。また、なかには放射線治療がベストではないケースもありますので、そのときどきで飼い主さん・患者さんにとっての最適解を提案していく役割も担っています。

── 放射線腫瘍学との出会い、さらには専門医を目指した背景はどのようなものだったのでしょうか。

勤務医として京都の動物病院に勤めていたころ、海外の講師を招いたさまざまなセミナーに参加していたのですが、そこでカナダの先生の放射線治療の話を聞いたのが放射線腫瘍学との出会いでした。その話がとてもおもしろく、ぜひこの先生の元で学んでみたい!と、まずは2週間のビジターとして訪問。その後1年間のワーキングホリデービザを使い、インターンとして学ばせてもらいました。

それまで専門医については「まさか自分が…」という感覚でしたが、カナダでの勉強がどんどんとおもしろくなるにつれ「いつか自分もなれたらいいな」と漠然とした思いを抱くようになったんです。そんな思いをきっかけにアメリカ行きのご縁をいただき、専門医の資格取得に向けて歩き出しました。

── 吉川先生が思う放射線腫瘍学の“おもしろさ”とは、どのようなところにありますか?

目に見えないものを使いながら、患者さんに痛みや出血といった変化を起こさずに治療ができるところですね。放射線治療にもいろいろなやり方がありますが、あらゆる放射線を使いこなしながら患者さんのために治療を施すというのは、非常にユニークな学問だと感じています。

ペットのQOLにも寄り添った医療を

── 「どうぶつの総合病院」で働くことになったきっかけをお聞かせください。

専門医になってノースカロライナ州立大学で働いていた当時、日本とアメリカを行き来していたのですが、そのなかで日本における放射線治療の認知度や、その有効的な活用に課題を感じていました。

日本はもう少しできるはず…という思いでセミナーなどに登壇しながら、放射線治療について学びを深めていただく活動をしていたのですが、最終的には自分が日本に身を置き、しっかりとその発信や教育などに携わっていくべきだろうと感じるようになったんです。

そして、この活動にふさわしい場所はどこだろう?と探していたときに、友人から「どうぶつの総合病院」の話を聞き勤めることになりました。


── 日々働くなかで大切にしていることはどのようなことでしょうか。

「どうぶつの総合病院」はすばらしい医療機器が揃い、ハードウェアが非常に充実しています。それはとてもありがたいことなのですが、ここで大切になるのはそれらをどう使っていくか?というソフト、つまり“人”の面と言えるでしょう。この環境が宝の持ち腐れになってしまっては飼い主さんや患者さんが満足する医療は届けられなくなってしまうので、こうしたあらゆる機器を正しく使いこなせているか?という意識を常に持つようにしています。

そしてもうひとつ、がんを相手にしているとやはり治癒を目指せないこともあります。そういった現実も踏まえたうえで大切なのは、できる限り“良質な生活”を提供し、それが長く維持できるように努めることでしょう。もちろんそこには費用のことなども関わってきますがそこは正直にお伝えしながら、飼い主さんと患者さんにとってのベストな治療が提供できるよう心掛けています。


── QOL(クオリティ・オブ・ライフ)に寄り添うことも忘れてはいけないということですね。

そうですね。たとえ予後が厳しい病気であっても、その状況を少しでも“改善”できればと。生存期間を延ばしながらQOLも高める治療をスタンダードケアにすること、そしてこれを発信していくことは、私がこの先に取り組んでいきたいことでもあります。

あるべきはチーム医療によるがんの包括的なケア

──「どうぶつの総合病院」では“チーム医療”がスタンダードになっていますが、がん治療におけるチーム医療についてはどのようにお考えですか?

がん治療には手術・抗がん剤・放射線治療の3つのアプローチがありますが、そのなかでどれが最適なのかをそれぞれのプロが集まり話し合うことで、ベストな医療提供につながります。

コロラド州立大学で学んでいたときの環境がまさにそれで、腫瘍外科・腫瘍内科・放射線腫瘍科の先生が集まって、徹底的に患者さんについて率直な意見を話していたのを目の当たりにしてきました。そうした腫瘍専門のチームの中で勉強できたのはとても大きな経験でしたし、腫瘍における包括的なケアはそうあるべき。それに加えて栄養学やグリーフケア(遺族に対する悲しみのケア)などいろいろなピースが集まってこそ、がんのトータルケアができると考えています。


── では最後に、これから獣医師(専門医)を目指す方へのアドバイスをお願いします!

徹底的に学びたい!と思えるものがあるのであれば、それはとても幸せなことです。
あとは突き進むのみですが、そのうえでまちがいなく大切なのは“人とのつながり”。
誰かに相談できたり、誰かが助けてくれたり、ひょんなことで人脈が開けることもあるでしょう。私もこれまでたくさんの人に助けてもらって、ときには迷惑をかけて今があります。
ぜひこの“つながり”を大切にしながら、チャレンジしつづけてください!

プロフィール

吉川 陽人(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター  放射線腫瘍科 主任)

◾️学位・称号・資格
獣医師、博士(腫瘍生物学)、米国獣医放射線学専門医(放射線腫瘍学)

◾️所属学会
American College of Veterinary Radiology

◾️略歴
2004年
岐阜大学農学部獣医学科卒業
2004-2007年
京都府内動物病院勤務
2007-2008年
カナダサスカチュワン大学獣医放射線腫瘍科インターン
2008-2012年
コロラド州立大学大学院(腫瘍生物学博士号取得)
2012-2015年
コロラド州立大学獣医放射線腫瘍科レジデント
2015-2016年
コロラド州立大学獣医放射線腫瘍科助教授
2016-2023年
ノースカロライナ州立大学獣医放射線腫瘍科助教授
2023年
どうぶつの総合病院 放射線腫瘍科主任

◾️論文実績
論文実績はこちら

◾️学術活動
学術論文審査員
Veterinary Radiology and Ultrasound
Veterinary and Comparative Oncology
Journal of Small Animal Practice
PLOS ONE
Scientific Reports
Journal of Veterinary Internal Medicine
Journal of Veterinary Medical Sciences
Onco Targets and Therapy
Guest editor
International Journal of Molecular Sciences, Special Issue “From basic radiobiology to translational radiotherapy”

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