—どうぶつの総合病院が「いぬのおまつり」に出展
11月29日、越谷レイクタウンで開催された地域ドッグイベント「いぬのおまつり」に、動物の二次診療施設である『どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター』(以下、どうぶつの総合病院)が出展を行いました。“高度医療の拠点”として紹介診療を担う同院が、健康な犬と飼い主が集まる地域の場へ自ら出ていく背景には、供血犬猫(献血ドナー)の重要性を伝え、近隣の協力者を増やしたいという目的があります。この記事ではイベント当日の様子と、高度医療の動物病院が地域に開く価値をレポートします。
はじめてのイベント出展、その背景とは

当日はお天気にも恵まれ、澄んだ青空の下で心地よい風が吹く、まさに爽やかなイベント日和。越谷レイクタウンの大芝生広場で開催された「いぬのおまつり」は、草加市を中心に地域イベントを手がける「いぬとわたし team」主催の、犬と暮らす人たちのためのあたたかいイベントです。犬の飼い主さん同士の交流や、さまざまな出展ブースを楽しめる場として親しまれており、この日も会場は朝から多くの来場者でにぎわっていました。
どうぶつの総合病院が、こうした飼い主さんが集まる地域イベントにブース出展するのは今回が初めてのこと。出展を企画した管理本部の諸角篤始さんは、今年夏に開催された「いぬのおまつり」にプライベートでたまたま立ち寄った際、想像以上の来場者数と熱気に驚いたといいます。その経験から病院としても、地域の現場に出て飼い主さんと直接触れ合い、病院の役割や取り組みを知ってもらうと同時に、伝えたいメッセージをきちんと届ける必要性を感じ、今回の出展に至ったと語っていました。
ブースでは飼い主さんと直接触れ合う「健康チェック」を実施

愛犬用のフードや洋服、お出かけグッズなどのブースが立ち並ぶ中、どうぶつの総合病院ブースでは、獣医師・愛玩動物看護師による簡易健康チェックをメインに、愛犬の健康にまつわる体験を提供していました。
ボディコンディション(BCS)チェックコーナーは、太りすぎ/痩せすぎの目安をその場で確認し、適正体型の考え方を共有するもの。自分の愛犬(猫)が痩せているのか太っているのかを“触って確かめられる”体験ツール(写真)を使いながら、スタッフが来場者に丁寧に説明していました。
肥満が病気の引き金になることは多くの飼い主さんが理解している一方で、愛犬の体型を正確に把握できているケースは意外と多くありません。今回のBCS体験は、そのギャップを楽しみながら埋め、日々のケアへの意識づけにつなげられる取り組みだと感じました。

獣医師による簡易健康チェックでは、まず実際に体を触りながら全身の状態やコンディションを確かめ、続いて歯や歯ぐきの様子、口臭などお口の中も丁寧に診ていきます。結果は「健康チェックカード」として飼い主にフィードバック。“その場で終わらない”形で持ち帰れるのがよく、ブース前では「最近ちょっと気になっていたんです」「わざわざ病院にいくほどでもないけど、相談できて良かった」といった声も聞こえました。
メインテーマは『供血犬・供血猫を知ってもらうこと』

今回、イベントブースでもっとも力を入れて伝えていたのが供血犬・供血猫(献血ドナー)の登録募集です。
犬や猫の医療でも、輸血が必要になる場面は少なくありません。特にどうぶつの総合病院では重症患者や大きな外科手術の件数も多く、慢性的に血液が不足しているとのこと。
輸血は命を救う医療であり、そのためには安定した血液確保が不可欠です。
ただし動物の血液は、血液型の適合確認や鮮度管理が欠かせず、輸送・備蓄にも制約があります。こうした特性から、必要なときに近隣で協力してくれる供血犬猫の存在は、輸血医療を支える重要な基盤になります。
諸角さんは、「このイベントを通じて供血犬猫の重要性を伝え、関心を持ってくださった方には丁寧に登録のご案内をしたいと思っていました」と前置きしたうえで、次のように続けました。
「ただ、こうしたお話は一度のイベントで終わらせるものではないとも感じています。二次診療施設として、普段はなかなか直接お会いできない飼い主さんと触れ合い、必要な情報をきちんと届けられる場を、これからもできる限り作っていきたいです。そうした機会を積み重ねながら、供血犬猫の大切さや、私たちの病院が担っている役割を、地域の皆さんに継続して伝えていければと思っています。」

どうぶつの二次診療施設が“外に出る”ことで生まれる価値
二次診療病院は構造的に、飼い主さんとの接点が「かかりつけ医の紹介の後」に限られる存在です。
だからこそ多くの飼い主にとって、どんな病院なのか、どんな時に必要になるのかが、意外と見えにくく、どこか自分ごとになりにくい場合もあるかと思います。
今回のように、こうした動物病院が地域イベントへ出ていくことは、献血ドナー募集のためだけではなく、「どうぶつの二次診療の役割を“健康な犬猫の飼い主さんに伝える”ための場」としてとても大切だと感じました。
高度医療は必要になる瞬間が突然で、飼い主さんの意思決定は時間との勝負になります。
そのときに“知らない病院”を選ぶのは難しい――。
だからこそ、病気になる前に“知っている病院”になっておくことが、結果的に医療アクセスを支えることになるのです。
取材をして感じたのは、今回の出展が単なる地域参加にとどまらず、二次診療施設が平時から飼い主さんとの接点をつくり、信頼と理解を積み上げていくための実務的な取り組みになっていた点です。
高度医療の担い手が地域の現場に開いていくこの動きは、今後の動物医療とペットビジネスの関係性を考えるうえでも、注目すべき一歩だと言えるでしょう。
イベントが果たす、飼い主接点のつくりかた

さて、このどうぶつの総合病院のイベント出展は、ペット向けの商品・サービスに携わる企業にとっても示唆の多いものであると感じます。
専門性が高い領域ほど、生活者がいる場で「わかる入口」を用意することが必要。今回の健康チェックのような短時間の体験は、飼い主さんの理解と信頼を最短距離で生む仕掛けになっていました。
また、供血犬猫の募集のように社会性の高いテーマは、オンラインだけでは届きにくい層に対しても、リアルな場で共感の母数を広げられることがわかります。さらに、こうした平時の理解形成が、いざという時の意思決定を支えるという点は、医療に限らず高関与サービス全般に共通するポイントでしょう。
イベントは単なる販売や告知の場にとどまらず、消費者(飼い主さん)の理解を「育てていく」場でもある――今回の出展は、その価値を取材を通して改めて実感させてくれた事例でした。
高度医療の拠点が地域に開き、信頼と共感を積み上げていくこの取り組みは、動物医療に限らず、ペットビジネスに関わる皆さんにとっても大いに参考になるはずです。
取材/記事:小川類(Pet Biz JAPAN編集長)

