川田 彩夏 氏
富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社
グラフィックコミュニケーション営業統括部 グラフィックコミュニケーション販売推進部
小川 類
Pet Biz JAPAN 編集長
ペットビジネスで大切なことの一つに、お客様一人ひとりに寄り添うコミュニケーションがあります。
そこで今回は、企業に対しDXの観点で提案を行う富士フイルムビジネスイノベーションジャパンで、通販企業のコミュニケーション支援に携わる川田彩夏氏に、ペット業界において活かせるコミュニケーションの在り方について、Pet Biz JAPAN編集長・小川がお話を伺いました。
ペットビジネスが直面する「関係づくりの難しさ」とは
小川
川田さんは、通販・EC企業のコミュニケーション支援に携わっていらっしゃると伺いましたが、具体的にはどのようなことをされているのですか?
川田氏
私が所属するグラフィックコミュニケーション(GC)事業部では、商業印刷分野向けの印刷機を軸としたご提案を行っています。一方で、通販・EC企業様に対しては、データ統合や分析、ダイレクトメール企画などの紙媒体を活用した支援はもちろん、デジタルマーケティング領域でも幅広くサポートしています。
小川
富士フイルムさんが「通販」におけるマーケティング支援を行われているとは知りませんでした。
川田氏
はい。以前からアパレル業界や食品業界など、EC・通販事業が活発な業界をご支援しておりましたが、通販への進出が必須となりつつあるペット関連企業様からのご相談も増えています。
ペットフード通販企業様を中心に、猫砂やサプリメントを扱う事業者様とも関わりがあり、飼い主様との関係づくりをどう強化するかというテーマでご相談をいただくことが多いですね。

小川
お客様とのコミュニケーションのあり方も変わってきているとか。
川田氏
昨今はオンライン・オフラインともに情報が溢れており、今まで以上に「自分に必要な情報だけを受け取りたい」という意向が強いですね。どんな情報を、どんなタイミングでお届けするか、ということが非常に重要になってきています。
小川
なるほど、消費者として見ても、企業から届くメールやSNSの情報量は非常に多いと感じます。すべてには目を通せないと思う時もあります。
川田氏
そうなんです。莫大な情報量の中で伝えたい情報が埋もれてしまったり、メルマガ停止やSNSブロックなどにより情報が届きにくくなっている企業様も少なくありません。だからこそ今、紙ならではの顧客体験を活かしたコミュニケーションの価値が見直されています。
ペット通販の特徴が、コミュニケーションを難しくする
川田氏
ペット業界は、飼い主様の愛情の深さが本当に印象的ですね。その子に寄り添った丁寧なコミュニケーションが求められていると感じます。
小川
そうですね。飼育頭数は伸びていない状況の中、支出額は確実に増えています。例えば月間のペット関連支出額は2021年から犬で22%、猫で30%も伸びています。※1
一頭あたりにかけるお金が増えていることは、飼い主さんはペットの生活の質に対して高い意識が向いていることを示していると思います。
川田氏
より“家族化”が加速しているということですね。
小川
ペットフード・用品の購入におけるインターネット通販の利用も、この数年で着実に伸びています。犬・猫ともに「ホームセンター・ディスカウントストア」に次いで、インターネットでの購入は約40%に達しています。今やECは補助的な手段ではなく、日常的な購買チャネルとして定着しています。※2

川田氏
店舗とインターネット、使い分けながら購入する行動が一般的になっていますよね。
小川
はい。これはペット業界に限ったことではありませんが、インターネット通販は便利な一方で、他製品との比較などがしやすいこともあり、価格競争などに傾きやすく、「ブランドのファンを作る」ということが大きなテーマになってきます。
特にペット向け商材においては、動物種、犬種や猫種、年齢、体重、健康状態、生活環境…など、必要な情報は多岐にわたるため、顧客理解の難易度が非常に高い分野でもあります。
川田氏
だからこそ、「その子に合った情報を届けたい」と考えている企業様は多いですね。
小川
飼い主さんは自分のペットに関係のない情報にはなかなか反応しないものです。
「うちの子を理解してくれている」と感じられる体験こそが信頼につながるのですが、そのためには、「その子に合った情報」を届ける施策が欠かせないと思います。
ただ、理想としては個別に最適化された対応であっても、現実には仕組みや運用のハードルがあるのも事実でしょう。
※1,2参照:一般社団法人ペットフード協会 2025年全国犬猫飼育実態調査
必ず届き、必ず見てもらえる。One to Oneコミュニケーションという新しい顧客接点
小川
こうしたコミュニケーションの課題に対して、通販の現場で活用されている仕組みがあるとうかがいました。どのような取り組みなのでしょうか。
川田氏
「One to One 明細書ソリューション」というサービスです。通販やECで商品をお届けする際に同梱する納品書や明細書に販促情報を掲載し、販促ツール化させる仕組みです。掲載する情報はお客様一人ひとりに合わせて変更できるため、例えば年齢や性別、購入商品などに合わせてより「お客様に合った」情報をお届けできます。
小川
確かに、商品が届いたら明細書は必ず手に取りますよね。
川田氏
そうなんです。商品と同梱して送られるため開封率はほぼ100%、個人情報や支払情報が記載されているため閲覧率も高い媒体です。昨年、当社が一般消費者向けに行った調査では、明細書を確認される方の約7割が明細書を保管し、2~3回読み返しているという結果も出ています。これは紙媒体ならではの特性と言えるかと思います。
小川
メールマガジンやSNS等のデジタル媒体は見逃されてしまったり、再度確認しようとしてもなかなか見つけられなかったりしますが、明細書は紙だから何度でも見返すことができますね。
川田氏
デジタル施策はもちろん便利で有効な手段ですが、一方でシャットダウンされやすいという側面もあります。明細書を販促物にすることで、届けたい情報を確実に目にとめてもらうことができます。さらにポイントなのは、「商品と一緒にお届けする」という点。一般的に商品到着時は「商品が届いた!」と期待感が高まっているタイミングです。ですから受け取った情報に対してもポジティブに受け取ってもらいやすく、同梱物で興味を持った情報をきっかけに、商品注文やWeb検索、SNSでの共有といった行動につながるケースも多くみられます。
小川
紙媒体でもOne to Oneのコミュニケーションが実現できるというのは興味深いですね。具体的にはどのような内容を掲載できるのでしょうか。
川田氏
例えば、愛犬愛猫の体重に合わせたごはんの給与量の目安や犬種特有の健康注意、季節ごとのケア情報など、その子の生活に役立つ情報です。そのほかにも顧客の購入状況・会員情報に合わせたクーポンなども掲載できます。「自分と自分のペットの生活」に関わる内容だからこそ、日常の中で繰り返し見てもらえる接点になります。
また、購入者である飼い主さんのレビューを掲載したり、SNS投稿を紹介したりと、UGC(口コミやSNSの投稿などユーザーが自発的に作成・投稿するコンテンツ)として活用される企業様もあります。実際にどのようなコンテンツを掲載するかは、企業様で蓄積されている情報をふまえ、弊社のこれまでのノウハウも生かしながら、効果的な訴求をご提案させていただいています。
小川
明細書が単なる取引書類ではなく、暮らしの中に残る情報接点になるわけですね。
川田氏
はい。実際の導入企業様では、継続率向上や、長く利用していただくことで生まれる価値(LTV)の向上にもつながったという声をいただいています。定期購入の解約率が8%から6.5%へ低下した例や、はがき注文が1.5〜2倍に増加した事例、お客様の声(レビュー)の返送数が5〜6倍に伸びたケースもあります。
導入企業様から、顧客とのコミュニケーションの質が変わったという声をいただき、私たち自身も手応えを感じています。
既存のお客様との関係が深まることで、継続的にご利用いただけたり、他の商品にも関心を持っていただけるようになるーーそうした積み重ねが、企業様への信頼につながり、長く続く関係を築いていくことにつながります。

届くたびに、信頼が積み重なる

小川
ペットビジネスにおいて重要なのは、「売る工夫」より「伝える工夫」なのかもしれません。飼い主さんは大切な家族の健康や幸せを託して商品を選んでいますから。
川田氏
本当にそう感じます。“うちの子”の状態や暮らしに寄り添った丁寧な情報提供が求められていますよね。「理解してくれている」「寄り添ってくれている」と感じられるコミュニケーションが、信頼関係を築いていくのだと思います。
小川
ペット業界には、本当に良い商品やサービスを提供している企業が多いと感じています。一方で、それが十分に伝わっていない場面もあるのではないでしょうか。どんなに良いものであっても、飼い主さんに届かなければ存在しないのと同じです。
川田氏
おっしゃる通りだと思います。現場では多くの努力が重ねられていますが、顧客との関係づくりという視点では、まださまざまな可能性があると感じています。私たちは企業様と飼い主様をつなぐ橋渡し役として、コミュニケーションの選択肢を広げるお手伝いができればと考えています。
新しい取り組みには慎重になる企業様も少なくないかと思うのですが、デジタルと紙、それぞれの強みを活かしながら顧客との接点を見直していくことは、飼い主様により良い価値を届けることにもつながります。
届くたびに信頼が積み重なっていくようなコミュニケーションが、長く続く関係づくりにつながっていくのではないかと考えています。



