カギを握るのは「診療」「教育」「臨床研究」。3つのシナジーで循環器診療のレベルアップへ

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター  循環器科
主任 髙野裕史 先生

動物に関わるさまざまな分野のトップランナーの皆さまにお話を伺う「The specialist」。
今回は、どうぶつの総合病院専門医療&救急センター循環器科 主任・髙野裕史先生のインタビューをお届けします。
制度として立ち上がったばかりである「アジア獣医内科専門医」の資格を取得された髙野先生。この専門医資格を活かすことで実現させたい循環器診療の未来や、目指す教育の在り方についてなど、たっぷりとお話いただきました。

目指すのは「診療」「教育」「臨床研究」のシナジーによる循環器診療のレベルアップ

── 現在、循環器科の「アジア獣医内科専門医」として活躍されている髙野先生。まずは獣医療における循環器科の役割・お仕事についてお聞かせください。

循環器科は、たとえば犬や猫の心臓に雑音が聞こえる、不整脈が見られるといった心臓の異常が疑われるときに、その原因を精査し診断・治療につなげていく仕事です。
そのほかにも、疲れやすい、咳が出る、呼吸が早い、失神、ふらつき…といった、さまざまな症状を起点とし、その原因を探っていく役割も持ちます。

── 専門医の資格を取得した理由はどのようなものだったのでしょうか。

大学の研究室で心臓について研究していたのですが、そこで循環器疾患への関心が高まり、「もっと深く心臓の勉強をしたい」と思ったのが私の循環器への学びのはじまりでした。


のちに博士課程まで進み大学の教員に従事することになりますが、その過程で、獣医療における循環器診療のレベルアップには「診療」「教育」「臨床研究」の3つがすべて大切であるとあらためて感じたんです。
そして、この3つを軸として“シナジー”を起こすことで、循環器診療をより良いものにしたい──そんな想いが夢となり、この夢を形にするために大きな力になるであろう専門医の資格取得を目指しました。

── この「アジア獣医内科専門医」という資格は、制度として立ち上がったばかりだと伺いました。今後どういう広がりを見せていくと思いますか?

たとえば日本だけで見たとしても、アジアの獣医療の水準は決して低くないと考えています。
だからこそ大切なのは、発信力や英語でのコミュニケーション力をレベルアップさせることなのではないでしょうか。


これが実現すれば、欧米の先生方とも対等にディスカッションができるようになり、日本、そしてアジア全体の獣医療の水準もより上がっていくだろうと思います。

── 非常に可能性を感じますね。取得を志す人も増えるのではないでしょうか?

そうですね。
今はまだ1年目ですが、これから5年・10年のスパンで「日本でもしっかりとした専門医資格が取れる」ということが認知され、優秀な若い先生たちが集まってくれるような制度になればうれしいです。

夢の実現に向けたレールに乗り…あとは前へ進むのみ!

── 2020年からどうぶつの総合病院でお仕事をされていますが、そのきっかけ・背景をお聞かせください。

こちらに赴任する前に、一度このどうぶつの総合病院を見学させてもらったことがありました。もちろんそれまでも評判を耳にしてはいたのですが、そこであらためて多くの魅力を感じたんですね。


たとえばここでは、一人ではわからない分野でも他の優秀な先生方とディスカッションができ、それによってひとつの症例に対していろいろな側面からアプローチができます。


また、心不全や血栓症といった救急疾患においても、救急センターと我々循環器科の獣医師がタッグを組むことでより良い診療ができ、結果として救える命が増える可能性も高まります。こういった環境は私にとって本当に魅力的で、ここで働くことを決めました。

── そんな理想的な環境での獣医療。これまでの4年間はいかがでしたか?

外科や内科をはじめ、麻酔科、神経科、皮膚科、病理/臨床病理科、画像診断科、放射線治療…と、専門診療科も充実してきており、この点はどうぶつの総合病院ならではの大きな強みだな、とあらためて実感しています。

実際に先日も、心不全と戦い抜いた末に亡くなってしまった犬の心臓を病理検体としてみる機会があったのですが、病理科の浅川翠先生とディスカッションしながらみていくことで、より知見を深めることができました。
このような機会が持てるのは、私にとってとても貴重な経験となっています。

── まさに、かつての髙野先生が魅力に感じたところですね。

はい。さらにもうひとつ私にとって大きかったのが、この病院が私の“夢の実現”に向けて後押しをしてくれる場となったということです。


たとえば、現在私は麻布大学の共同研究員でもあるのですが、そこではどうぶつの総合病院で蓄積した診療データを用いて、新たな知見を「臨床研究」として発表することができています。

また、インターンやレジデントといった獣医師の先生方の他、大学での実習や学生インターンへの「教育」にも携わることができました。そこの2軸をもって「診療」のレベルも上がり、より良い循環器の診療にもつなげることができる…。
まだ夢半ばではありますが、いつか叶えるためのレールには乗せていただいたので、ここからさらに前へ進んでいければと思っています。

ここで学ぶことで救える命が増える──。目指すのはそんな好循環が生まれる場

── 大学での教員経験もおありのことでしたが、どうぶつの総合病院での教育については、どのような想いで取り組まれていますか?

世の中には若くて優秀な先生がいっぱいいるのですが、コンテンツが溢れているこの時代、どこでどう勉強したら良いの?と悩まれている方も少なくありません。

そんななか、このどうぶつの総合病院に来れば確実に質の良い学習が身に付き、それを今度は自身の診療に活かすことができる。そしてそれによって救える命が増えていく…。
そんな好循環が生まれるような場所にできたらと思っています。

── すでに獣医師として活躍されている先生にはもちろん、獣医師を目指している学生の方にとっても貴重な場となりますね。

麻布大学から臨床実習に来ている方や、インターンとして働いてくれている方など、ここにはたくさんの学生さんが来てくれています。

みなさんにはこの施設にある多くの診療科、そしてスタッフが協力して診療している場などをぜひ見てもらい、関心のある領域を探す“きっかけ”にしてもらえればうれしいですね。

また、国家資格化した愛玩動物看護師さんの教育やキャリア形成にも、同じように貢献できたらと考えてます。

── 最後に、これから獣医師を目指す方や、専門医の資格を取得しようとしている方へメッセージをお願いします。

獣医師になるため、さらに専門医療を学ぶための過程では悩むことも多いでしょう。ですが、そのときどきでしっかりと考え、やりたいことをやり、努力をしていれば、どんな選択をしようときっと楽しい未来が待っているはずです。

もちろん、前に進むためには悩むことも大切ではありますが、まずは目の前のことにしっかりと向き合いながら、一歩一歩みなさんの道を開いていってください。

どんな道を選ぼうとワクワクする世界が待っていますよ!

プロフィール

髙野 裕史(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター循環器科 主任)

◾️学位・称号・資格

獣医師、博士(獣医学)、アジア獣医内科専門医(循環器)、動物循環器認定医



◾️所属学会

日本獣医循環器学会

◾️略歴

2002-2008年
麻布大学獣医学部獣医学科
2008-2012年
麻布大学大学院獣医学研究科(獣医学専攻)
2011-2012年
日本学術振興会 特別研究員 
2013-2014年
酪農学園大学獣医学群獣医学類伴侶動物医療分野 非常勤講師
2014-2020年
JASMINEどうぶつ循環器病センター 勤務医
2015-2017年
東京大学附属動物医療センター(循環器科) 特任研究員/特任助教
2020-
麻布大学大学院獣医学研究科 共同研究員
どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター循環器科主任



◾️論文実績

論文実績はこちら

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