
都心の集合住宅で、3階・4階はすべてが「猫専用」。
犬はNG、猫との暮らしに特化した設計を徹底したマンション「Maison de Takaya」の内覧会を取材してきました。
本マンションの建築設計を担当したのは、一級建築士であり、動物と人の共生住宅を数多く手がけてきた金巻ともこさん。
金巻さんの猫への思いと設計手法がどのように空間化されているのか、詳しくご紹介します。
「猫専用」という思想の徹底

外観は、落ち着いたグレー基調のモダンな佇まい。しかし一歩足を踏み入れると、空間の随所に「これは猫のための設計だ」と気づかされる仕掛けが現れます。しかしこのマンションの特筆すべき点は、単に猫向け設備が多いということではありません。
それは猫という生き物を深く理解し、その特性を建築として翻訳している点。
内覧中、金巻さんが繰り返し強調していたのは、「猫の行動を人間側のルールやしつけで縛るのではなく、事故が起きない環境そのものをつくる」という考え方でした。

猫は高い場所を好み、狭い空間に安心感を覚え、強い好奇心を持つ一方で、高さや危険を正確に認識することは得意ではありません。窓の外に見える鳥や電線に反応し、ためらいなく外へ出てしまうこともあります。
「Maison de Takaya」では、そうした猫の特性を前提とした設計が徹底されています。実際、内覧を一通り終えるころには、「猫とはどういう生き物なのか」が自然と理解できる構成になっていることに気づかされました。
セーフティバルコニーという答え

象徴的だったのが、セーフティバルコニーです。
洗濯物を干しに人が窓を開けてバルコニーに出る、そんな日常の生活行動でも猫には危険があります。猫が安心して出られるバルコニーを実現しようとすると、一般的にはネットを張り巡らせる方法が取られます。しかしその場合、どうしても“檻”のような印象になり、集合住宅としての外観や意匠との両立が難しくなります。
金巻さんはこの課題に対し、建物全体のデザインモチーフでもある縦格子をバルコニーにも採用するという方法を選択しました。猫がすり抜けられない寸法を厳密に守りながら、見栄え、暮らしやすさ、安全性を同時に成立させています。
見えてきたのは「猫のため=デザインを犠牲にする」という従来の常識を、建築の力で更新しようとする姿勢でした。
トイレは“隠す”のではなく“観察する”

もうひとつ印象的だったのが、猫用トイレの配置です。
猫の排泄行動は、健康状態を把握するための重要な指標です。本来は、飼い主が日常的に目にできる場所にあることが望ましいとされています。一方で、来客時などを考えると、生活空間からは隠したいというのが現実でしょう。
「Maison de Takaya」では、そのジレンマに対し、人間用トイレの中に猫用トイレを設置するという設計で応えています。トイレトレー設置スペースには専用コンセントがあるので、留守番が多い家庭でも個体管理をしやすい見守りカメラ付きのペットテックトイレを設置。換気計画と連動させることで、臭気がリビング側に戻らないよう配慮されています。
さらに、猫砂の飛散を防ぐ木製の仕切りが設けられており、清掃時には簡単に取り外せる構造になっています。
猫との暮らしは「日常」。掃除や使いやすさを具体的に想定したうえで設計されていることが伝わってきました。
玄関のキャットゲートに宿る、設計者の葛藤

玄関には、猫の飛び出しを防ぐためのキャットゲートが設置されています。しかしここでも、単なる安全装置にとどめていない点が印象的です。
強度を確保するためには補強材が必要ですが、一般的な方法では横材が入り、和風の意匠に寄ってしまいます。賃貸マンションである以上、居住者の趣向はさまざま。
金巻さんは「誰が住むかわからないからこそ、洋風のインテリアにもなじむデザインにしたかった」と語ります。その結果、木材を“散らす”ように配置した独自の格子デザインの「ねこゲート/DAIKEN製品」が採用されました。この「ねこゲート」も金巻さんが企画からデザイン監修をした建具だそう。機能とデザインの両立を諦めなかったあり方が、ここにもよく表れていると感じます。
猫の幸せは、人の幸せ。

今回、内覧会を通して感じられたのは、細部にまで行き届いた猫への配慮だけではありません。
その根底には、「猫が安心して暮らせる環境は、結果的に人のストレスも減らす」という明確な思想がありました。
猫の行動を理解し、事故を未然に防ぎ、無用な緊張や制限を生まない。その積み重ねは、猫にとっての安心安全であると同時に、飼い主にとっての安心安全でもあります。
「Maison de Takaya」は、金巻さんの知見と経験、そして
「猫の幸せは飼い主さんが創ることができる」という強いメッセージが込められた建築だと感じました。
動物と暮らす未来に対して、ひとつの具体的な答えを提示する集合住宅――。
今後のペット共生住宅を考えるうえで、非常に示唆に富む事例といえるのではないでしょうか。
Pet Biz JAPAN編集長 小川 類
<リンク>
一級建築士事務所 かねまき・こくぼ空間工房
https://pal-design.jp
『Maison de Takaya』
https://www.mitsui-chintai.co.jp/resident/original/maison_de_takaya
