熊本地震のペット支援、その現場で何が起きているのか。愛玩動物看護師・増子元美さんに聞く、企業が今考えるべきこと

令和8年熊本地震の発生後、被災した飼い主やペットを支えるため、現地で活動を続けている人がいます。

「わんにゃん緊急災害ネットワーク熊本」のリーダーであり、「動物支援ナース熊本県支部」の代表を務める愛玩動物看護師・増子元美さんです。

増子さんは、行政、避難所、地域の支援者、飼い主と連携しながら、ペットに関する相談窓口を設置。さらに、飼い主が必要としている物資や支援と、提供できる人や企業をつなぐ「ニーズ・資源マッチングフォーム」を再稼働させました。

熊本の被災ペットは今、どのような状況にあるのでしょうか。そして、ペットに関わる企業は何を考え、どう動くべきなのでしょうか。増子さんに現地の実情を聞きました。

自宅避難を続ける飼い主も。発災後すぐに官民連携の預かり支援が始動

――現在の熊本のペットと飼い主の状況を教えてください。

増子さん:
避難所に行かず、自宅で避難生活を続けている飼い主さんも多いです。ペット同伴で避難できる場所も少しずつできていますが、地域や避難所によって受け入れ状況は異なります。

飼い主さんは、家の片付けや行政手続き、仕事など、生活を立て直すために動かなければなりません。ペットと一緒に避難できていたとしても、日中ずっとそばにいられるとは限らないんです。

そうした状況の中、8月4日には、熊本県獣医師会、熊本県、熊本市が連携して「熊本地震ペット救護本部」が設置され、同日から県獣医師会の会員動物病院による被災ペットの一時預かりが始まりました。

発災後の早い段階で、獣医師会だけではなく県と市も加わった公的な支援体制が立ち上がったことは、飼い主さんにとって大きな安心につながっていると思います。

熊本市水前寺競技場ペット避難所にて。ドキドキの姿

ペットを安心して預けられることで、飼い主さんは家の片付けや仕事、生活再建のための手続きに動くことができます。

一方で、やむを得ず一時預かりを利用することになった犬や猫にとって、慣れない場所や人、生活リズムの変化は大きなストレスになります。飼い主さんも、被災生活そのものへの不安に加え、ペットと離れることへの心配や罪悪感を抱え、精神的に厳しい状況に置かれています。

そのため私たちは、物資や預かり先を案内するだけではなく、犬や猫の様子を見ながら必要なケアを考えたり、飼い主さんの不安や悩みを聞いたりする活動も行っています。災害時の支援では、ペットの身体的な安全だけでなく、犬猫と飼い主さん双方の心のケアも欠かせません。

慣れない場所でも、3頭一緒なら落ち着いていられる
熊本県獣医師会が立ち上げたペットの一時預かり

「物がない」のではなく、「必要な人に届かない」

――今、物資支援の現場ではどのようなことが起きていますか。

増子さん:
10年前の熊本地震の時もそうでしたが、物資を送っていただくのはありがたい反面、課題も多く抱えています。

物資が送られてきても、保管する場所がない。夏場は炎天下で傷んでしまう物もありますし、ペットシーツやフードなどは箱で届くとかなり場所を取ります。

ボランティアが飼い主さんを探して、「これ、必要ですか」と声をかけても、「今はいりません」と断られることも。でも、その一方で、別の場所には本当に必要としている人がいる。

物資が足りないというよりも、必要な人がどこにいて、何をどれだけ必要としているのかが見えにくいことが大きな問題なんです。

10年前の熊本地震の時もそうでしたが、物資を送っていただくのはありがたい反面、課題も多く抱えています。

物資が送られてきても、保管する場所がない。夏場は炎天下で傷んでしまう物もありますし、ペットシーツやフードなどは箱で届くとかなり場所を取ります。

必要な量をプッシュ型で補充か?保管場所も避難所近くに見つけて頂けたらいいなあと思います。

令和7年豪雨災害の際「雑巾が集まりすぎた」ことも

――ニュースなどでもしばしば聞こえてきますが、善意で集まった物資が、現場の負担になることもあるのでしょうか。

増子さん:
申し訳ないけれど、あります。令和7年8月10日大雨災害の際 ある団体が「雑巾が欲しい」と発信したところ、今度は雑巾が集まりすぎてしまったことがありました。

その時点では必要だったとしても、情報が拡散された後に止める仕組みがなければ、必要数を超えて届き続けてしまいます。物資を管理する補充するプッシュ型ならば混乱は起きにくいと思います。

企業から大きな箱で物資を提供したいという申し出をいただくこともあります。でも、50箱単位で送られても、受け入れる場所が決まっていなければ受け取ることができません。

「たくさん送ること」が支援なのではなく、大切なのは必要な数だけ、必要な場所へ届けることなんです。

2016年に立ち上げたマッチングフォームを再稼働

――そこで今回、ニーズと資源をつなぐフォームを再び立ち上げたのですね。

増子さん:
はい。「わんにゃん緊急災害ネットワーク熊本」では、2016年の熊本地震の際に使ったフォームを、今回も再稼働させました。

飼い主さんや現場の方には、「何に困っているか」「何が必要か」を入力してもらいます。

一方で、支援できる方には、「何を提供できるか」「どの地域まで動けるか」などを入力してもらいます。

それを私たちが確認し、マッチするものがあれば、ボランティアが物資を集めたり、現地へ届けたりします。

最初から欲しい物と数量が分かるため、ロスが少なくなります。必要のない物を大量に集めてから配るのではなく、必要としている人の声を先に拾う仕組みです。

「ニーズ」と「資源」を直接つなぐ

「令和8年熊本地震ニーズ・資源マッチングフォーム」では、以下のような情報を受け付けています。

ニーズを持つ人

  • ペットに関する相談
  • 一時的な世話
  • シャンプー
  • 獣医療
  • しつけ
  • 迷子捜索
  • 保護
  • 資金
  • フード
  • トイレ用品
  • ケージ
  • 獣医師
  • 愛玩動物看護師
  • ドッグトレーナー
  • トリマー

資源を提供できる人

  • 提供可能な物資
  • 協力できる専門職
  • 活動可能な地域
  • 支援できる内容

フォームに入力された情報は、マッチングの目的にのみ使用され、条件が合った場合に事務局から双方へ連絡する仕組みです。

【令和8年熊本地震ニーズ・資源マッチングフォーム】
https://forms.gle/LNJUz7Rg9WUbqQzy9

マッチングフォーム。被災したペットの飼い主の多くに届いて欲しい

もっと熊本の飼い主に知ってほしい

――今、このフォームについて一番感じている課題は何でしょうか。

増子さん:
もっと多くの飼い主さんに知ってもらいたいです。

フォームがあっても、必要としている人にこの存在が届かなければ利用してもらえません。自宅避難をしている方や、小さな地域にいる方には、情報そのものが届いていない可能性があります。

ただ、私たちの団体だけで熊本全域をカバーするのは難しいです。電話で相談を受けることもできますが、人の手には限界があります。

だからこそ、このような仕組みをもっと大きな形にしていく必要があると思っています。

企業にお願いしたいのは、物資だけではない

――ペットビジネスに日頃から携わる企業が支援を考える場合、どのようなことを期待しますか。

増子さん:
まずお願いしたいのは、仕組みづくりです。

企業の皆さんは、社内で情報を集めたり、在庫を管理したり、複数の拠点をつないだりする仕組みを日常的に使っていますよね。

災害時にも、「どこで」「誰が」「何を」「どれだけ必要としているか」を把握して、それを提供できる人や企業とつなぐ仕組みが必要です。

今使っているGoogleフォームは、私たち民間団体ができる範囲で作ったものです。もっと広い地域、多くの飼い主をカバーするには、企業や行政も関わった、より大きな仕組みが必要だと思います。

必要なのは「物資を置く場所」

――なるほど。ほかにはどのようなことがあるでしょうか。

増子さん:
私が本当にあったら良いなと思うのが物資を保管できる場所です。

被災地では、支援物資を送ってもらっても、置く場所がありません。避難所は人の支援物資だけでもいっぱいです。ペット用品まで管理する余裕がない場合もあります。

そこで、移動式のコンテナカーのようなものがあるといいと思っています。

普段は倉庫として物資を保管し、必要な避難所へ移動できる。場合によっては、雨風をしのぐペットの一時避難場所や、相談窓口としても使える。

車体に複数の企業名を載せて、業界全体で運営する形でもよいと思います。

これは、ボランティア個人では実現できません。だからこそ企業の力を借りたいです。

支援は、避難所を出たら終わりではない

増子さんがリーダーとなって活動している「わんにゃん緊急災害ネットワーク熊本」。支援は2年3年と続く。

――今後、どのくらいの期間、支援が必要になると考えていますか。

増子さん:
避難所から仮設住宅やみなし仮設へ移る段階で、また新しい問題が出てきます。

犬や猫も環境が変わることでストレスを感じますし、飼い主さん自身も長い避難生活で疲れていきます。

早くても1年、2年。場合によっては2年、3年と支援が必要になると思います。

物資を一度送って終わりではなく、飼い主さんが動物のことで悩みすぎないように、相談や預かり、専門職によるサポートを継続していく必要があります。

その活動を支える企業がいてくださると、私たちも継続できます。

現場だけでは思いつかない知恵を寄せてほしい

――最後に、ペットビジネスに携わるみなさんへメッセージをお願いします。

増子さん:
被災現場にいると、目の前のことだけで精いっぱいになってしまいます。

企業の方には、物を送るだけではなく、「どうすればもっと効率的に届けられるか」「どうすれば現場の負担を減らせるか」という知恵をお借りできたらと思います。

ペット業界以外で使われている仕組みが、災害時のペット支援に活かせることもあると思います。

次にどこで災害が起きるかは分かりません。自分たちの地域で起きた時にどうするかという視点で、平時から考えていただけたらとても心強いです。

PBJ編集部より

災害が起きると、「何か送りたい」「力になりたい」という善意が全国から集まります。

しかし、今回の増子さんの話から見えてきたのは、物資の量ではなく、支援を届ける仕組みそのものが不足しているという現実でした。

必要な人に、必要な物を、必要な数だけ届ける情報網。

届いた物資を一時保管し、必要な場所へ運べる移動拠点。

避難所、動物病院、行政、民間団体、企業をつなぐ連携体制。

これらは、発災後に現場のボランティアだけで作れるものではありません。

ペットビジネスに関わる企業ができることは、個人の支援とは異なります。商品を送ることだけではなく、物流、IT、在庫管理、施設、車両、資金、人材など、自社が持つ機能を災害時にどう活かせるかを考えること。

そして何より、支援する前に現地の状況を知ることです。

善意を無駄にせず、現場の負担にもさせないために。

増子さんたちの活動は、災害時のペット支援を「届けたい側」からではなく、「必要としている側」から考えることの大切さを教えてくれます。

増子さんの日頃からの活動はこちら

コンパニオンアニマルパーティ
https://cap-masuko.com/

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